近年、日本の大手企業のオフィスといえば、広大なワンフロアで社員みなが顔を突き合わせて仕事をする環境が主流になりつつある。IT企業などではオープンスペースで自分専用のデスクすらない企業も多い。コロナ以降は飛沫が飛ばないようアクリル板などで周囲を仕切るケースが増えたが、緊急事態の有無にかかわらず「オフィスは仕切るべき」と主張するのは、近著に『「超」働き方改革』の著書がある同志社大学政策学部教授の太田肇氏だ。
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新型コロナウイルス感染の終息が見えない中でも、緊急事態宣言が解除されるとオフィス街には人影が戻ってきた。宣言解除を待ちかねていたようにテレワークをやめ、元の職場環境に戻そうとしている企業が多い。
しかし私は「ちょっと待て」と言いたい。いまこそ働きやすく、生産性も上がるオフィスに改革する二度とないチャンスだからである。
日本式オフィスは「事務作業の場」
私はこれまで世界の約20か国で企業や役所のオフィスを見てきたが、欧米はもちろんアジアの国々でも管理職には個室が与えられ、非管理職も一人ひとりのデスクは衝立で仕切られている。大部屋で仕切りがないデスクで仕事をするのは日本だけである。日本式のオフィスはきわめて特殊な構造なのだ。
大部屋で課や係の全員が顔を突き合わせるようにして働く日本式のオフィスは、たしかに便利な点が多い。互いに仕事の進捗状況が把握できるし、上司が部下に、先輩が後輩に対して手軽に仕事を教えられる。また、同僚の仕事を手伝うのも容易だ。さらに、誰かが仕事をサボったり、手を抜いたりしているとすぐ分かるし、上司は普段から部下の働きぶりを目の当たりにしているので人事評価も行いやすい。
しかし注意すべき点は、そこで前提になっているのが狭い意味での「事務作業」だということである。
たしかに伝票処理、書類の作成、顧客や取引先との連絡、その他雑多な課題の処理といった事務作業を効率的にこなすのに、大部屋で仕切りのないオフィスは適している。けれども、このような事務作業の大半がITに取って代わられようとしていることを忘れてはいけない。
それに伴い、多くの職種・職場ではITによる代替が困難な能力、とりわけ創造性や思考力を要する仕事の比重が大きくなった。その結果、オフィスは「事務作業の場」から「創造の場」に変わったのである。