臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、初の新型コロナウイルス感染者が出た岩手県ついて。
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「ついに出たか」。7月29日夜、「岩手県で初の感染者確認」というニュース速報を見てそう思った人は多かったのではないだろうか。だが、もし自分が岩手県民だったら「ようやく出たか」が本音かもしれない。自分が感染者第1号にならなかったことに、利己的だが安堵感にも似た感情が胸に湧いたのではないだろうか。
国内で唯一「感染者ゼロ」を3か月以上維持してきた岩手県だが、ついに初のコロナ感染者が出てしまった。達増拓也岩手県知事と谷藤裕明盛岡市長は、その日のうちに2人並んで会見を開いた。初の感染者となったのは盛岡市の40代男性。22日から26日まで自家用車で関東のキャンプ場に友人3人と滞在した後、このうちの1人の感染が28日に判明し、自身もPCR検査したところ陽性と確認された。軽い咳と喉の違和感があるだけで軽症だという。早速入院の手続きが進められたようだ。
岩手県はこれまで感染者を出さずによく頑張ってきた。だが、感染者ゼロの日が長くなるほど、県民なら「最初の1人には絶対になりたくない」という気持ちも強まっていく。自分だったら少し咳が出たり微熱があったとしても、「もしかして?」という不安を頭から追いやり、よほど体調が悪くならない限り検査には行くのはためらってしまうだろう。
実際、県内では、人々の心理的プレッシャーが大きくなっていたようだ。ある都内在住の男性は、岩手県へ帰省の相談をしたところ、「もし岩手感染者第1号になったら、ニュースだけでは済まない」という父親とのLINEのやり取りをTwitterに投稿し、話題になった。こう返信した父親の気持ちもよく分かる。
そうした人々の心理を懸念して、達増知事は5月に「感染者第1号になっても県はその人を責めません」と発信していた。だが、県内では「県外ナンバーの車お断り」という張り紙をした飲食店があったり、ある病院では県外からの妊婦さんの受け入れが問題になったりしており、コロナによる「村八分」状態が生まれ、独特の緊張感が漂っていた。今回初の感染者が判明したことで、SNSや掲示板などでは、早速一部ユーザによる誹謗中傷も見られた。