さまざまな理由から中学校に通えなかった人を受け入れて授業を行う「夜間中学」。生徒たちの国籍や年齢層は、幅広い。たとえば、東京・葛飾区の双葉中学校夜間学級には現在、15才から66才まで33人の生徒が在籍し、うち28人は外国籍もしくは外国にルーツがある生徒だ。
文部科学省の調査によれば2017年7月時点で、全国約1687人の夜間中学の生徒の年齢別内訳は、20~39才が最も多く30.2%にのぼる。次いで60才以上が27%だ。
元文部科学事務次官の前川喜平さんが夜間中学の歴史を解説する。
「1947年に新制中学校が始まったものの、実際は経済的な事情で昼間働く必要があり、中学校に通えない子供が相当数いました。そうした子供を救うため現場の教師が自発的に働きかけたのが、夜間中学の始まり。いわば、草の根から生まれた学びの場なのです」
高度経済成長期に入ると、経済的な理由で学校に行けない子供が減少し、夜間中学の規模も徐々に縮小していった。前川さんはこう続ける。
「その頃から、夜間中学は主に学齢期を超えた大人たちの学びの場になりました。在日コリアンなど、差別や貧困のため義務教育を終えられなかった人々が、『夜間中学で勉強したい』と声をあげ、1970年頃から関西地方を中心に夜間中学が新設されました。それに合わせて、教える内容も中学校教育だけでなく、片仮名や平仮名など識字をはじめとした基礎教育全般に広がっていった」
なんで私の心の中の歴史には中学時代がないんだろう
大阪府在住の主婦・田村せい子さん(77才)は60代で入学したひとり。64年前に入学した中学には20日しか通えなかった。自分の下にいる5人の兄弟を食べさせるため、うどん店に住み込みで働き始めたのだ。
その後、結婚して4人の子宝に恵まれてからも生活のために必死に働いた。だが60才を過ぎて子育てがひと段落すると、彼女は突如として深い「欠落感」に襲われた。
「12才から当たり前のように大人に交じって働いてきたけれど、子供が育つと、ふと“なんで私の心の中の歴史には中学時代がないんだろう”って感じたんです。突き詰めて考えると、当時私の周囲に“この子を中学に行かせてやろう”と考えてくれる大人がいなかったことに対して、憮然とした気持ちがあった。だから自分の中の欠けている部分を補うには、やっぱり中学に行かなアカンなって思いました」(田村さん)