ライフ

【書評】定年退職後に夢の古本屋をオープンさせた店主の物語

『古本屋の四季』片岡喜彦・著

【書評】『古本屋の四季』/片岡喜彦・著/皓星社/1800円+税
【評者】川本三郎(評論家)

 本好きは誰でも一度は古本屋を開いてみたいと思うもの。しかしそれを実行する人は少ない。

 著者は定年退職後、三〇代の頃の夢を実現させ、神戸市に小さな「古書片岡」を開いた。商いは正直厳しいが、何より本との暮しは楽しくこの五月で十年を迎えた。

 最近多いサブカルチャー系ではなく固い労働運動、社会経済思想の本を並べる。女性客に「むつかしい本ばかりや」と言われても気にしない。労働運動の専従の仕事をしていたからこの分野に強い。開業に当って先輩に「店主の好きな本を取りあつかうことが、客を呼び客に評価されることになる」といういい助言をもらい、それに従った。

 その店主の心意気に惹かれ『共産党宣言』の朗読会を店で開きたいという客も現われる。著者は本好きであると同時に人間好き。客との会話を楽しむ。ある時、彫刻家の佐藤忠良の写真集を手にした客がいた。値が張るので「喜ばれる人の手元に行けば、本も幸せでしょうから安くします」と言うと、その客は諭した。「あなたの(尊敬する経済学者)向坂(逸郎)先生はぶれなかった。一度つけた値に自信を持ちなさい」。いい客だ。

関連記事

トピックス

春の園遊会に参加された天皇皇后両陛下(2025年4月、東京・港区。撮影/JMPA)
《春の園遊会ファッション》皇后雅子さま、選択率高めのイエロー系の着物をワントーンで着こなし落ち着いた雰囲気に 
NEWSポストセブン
現在はアメリカで生活する元皇族の小室眞子さん(時事通信フォト)
《ゆったりすぎコートで話題》小室眞子さんに「マタニティコーデ?」との声 アメリカでの出産事情と“かかるお金”、そして“産後ケア”は…
NEWSポストセブン
逮捕された元琉球放送アナウンサーの大坪彩織被告(過去の公式サイトより)
「同僚に薬物混入」で逮捕・起訴された琉球放送の元女性アナウンサー、公式ブログで綴っていた“ポエム”の内容
週刊ポスト
まさに土俵際(写真/JMPA)
「退職報道」の裏で元・白鵬を悩ませる資金繰り難 タニマチは離れ、日本橋の一等地150坪も塩漬け状態で「固定資産税と金利を払い続けることに」
週刊ポスト
精力的な音楽活動を続けているASKA(時事通信フォト)
ASKAが10年ぶりにNHK「世界的音楽番組」に出演決定 局内では“慎重論”も、制作は「紅白目玉」としてオファー
NEWSポストセブン
2022年、公安部時代の増田美希子氏。(共同)
「警察庁で目を惹く華やかな “えんじ色ワンピ”で執務」増田美希子警視長(47)の知人らが証言する“本当の評判”と“高校時代ハイスペの萌芽”《福井県警本部長に内定》
NEWSポストセブン
ショーンK氏
《信頼関係があったメディアにも全部手のひらを返されて》ショーンKとの一問一答「もっとメディアに出たいと思ったことは一度もない」「僕はサンドバック状態ですから」
NEWSポストセブン
悠仁さまが大学内で撮影された写真や動画が“中国版インスタ”に多数投稿されている事態に(撮影/JMPA)
筑波大学に進学された悠仁さま、構内で撮影された写真や動画が“中国版インスタ”に多数投稿「皇室制度の根幹を揺るがす事態に発展しかねない」の指摘も
女性セブン
奈良公園と観光客が戯れる様子を投稿したショート動画が物議に(TikTokより、現在は削除ずみ)
《シカに目がいかない》奈良公園で女性観光客がしゃがむ姿などをアップ…投稿内容に物議「露出系とは違う」「無断公開では」
NEWSポストセブン
長女が誕生した大谷と真美子さん(アフロ)
《大谷翔平に長女が誕生》真美子さん「出産目前」に1人で訪れた場所 「ゆったり服」で大谷の白ポルシェに乗って
NEWSポストセブン
『続・続・最後から二番目の恋』でW主演を務める中井貴一と小泉今日子
なぜ11年ぶり続編『続・続・最後から二番目の恋』は好発進できたのか 小泉今日子と中井貴一、月9ドラマ30年ぶりW主演の“因縁と信頼” 
NEWSポストセブン
第一子出産に向け準備を進める真美子さん
【ベビー誕生の大谷翔平・真美子さんに大きな試練】出産後のドジャースは遠征だらけ「真美子さんが孤独を感じ、すれ違いになる懸念」指摘する声
女性セブン