何らかの事情で中学校に通うことができなかった人を受け入れ、夜に授業を実施するのが、夜間中学だ。国籍も年齢もバラバラな生徒たちが集まり、多くの人が進路や生きがいを見つけ、人生における大きな一歩を踏み出す重要な場所になっているが、これまでの道のりは決して順風満帆ではなかった。
「むしろ旧文部省・現文科省は夜間中学に冷淡でした」
そう指摘するのは元文部科学事務次官の前川喜平さんだ。
「夜間中学の関係者が『もっと全国に広げてほしい』と陳情しても、文科省の担当者は『あるものをなくせとは言わないが、奨励もしない』という態度でした。文科省に入省したばかりの私も、そうした場面を何度も目にしましたが、役人には、学ぶ機会を奪われた人たちを支援するという意識がまるで欠けていました」(前川さん)
最たる例が、不登校などで実質的には教育を受けていないものの、中学の卒業証書を授与された「形式卒業者」に関する問題だ。
1961年から42年間にわたって夜間中学で教鞭をとり、山田洋次監督の映画『学校』(1993年)のモデルとなった見城慶和さん(82才)はこう話す。
「そうした子供たちが、『やっぱり勉強をしたい』と夜間中学への通学を望んでも、文科省はずっと、形式とはいえ卒業したのだからと、『税金を2回も使って中学に通わすことはできない』と拒んできました。私自身、入学を希望する生徒を泣く泣く断ったことが何十回もあります。そのたびに、“いったい何のための学校なのか”と思いました」(見城さん)