コロナ禍の外出自粛で、高齢者は運動不足による筋力低下や転倒のリスク、人との交流が減ることで認知機能の低下も心配されている。しかし、感染流行の収束はまだ先が見えず、熱中症が心配な夏を前に、高齢者はますます外出しにくい状況になっている。
認知症の人は人一倍ストレスに弱いといわれるが、同じ状況下で不安やストレスも大きいことだろう。家族はいま一度、認知症の人の心身について知り、コロナ感染を回避しながらも元気にこの苦境を乗り切れるよう支えたい。
認知症介護研究・研修東京センターの永田久美子さんに聞いた。
◆外に出ることで記憶がよみがえる
「認知症の人にとって外出がいかに重要かを知るために、新型コロナ流行はある意味、好機といえるかもしれません」と、永田さんは語る。
外出を規制されたことで誰もが息苦しさを感じた。閉塞感からイライラしたり落ち込んだり、先が見えない不安が募り、体調を崩した人も多い。
「認知症があると、家族が心配して外に出してもらえず、行きたいところに行けない、自由に買い物ができないなどの不自由がつきまといます。せっかくの家族の安全策が、想像以上に本人にストレスを強いています。人は外出できないだけで体調を崩すほどのダメージを受ける。認知症の人はコロナ以前から体験しています」
認知症ケアの中でも“屋外に出る”ことは、とても重要な要素の1つだという。
「外に出ないことで五感の刺激が乏しくなり、会話や思考の低下、睡眠リスクの乱れで昼夜逆転などにもつながります」
そして、外出にはよい効果がたくさんある。その1つは“記憶がよみがえる”ことだ。
「たとえば、街中の看板を見て難しい漢字をスラスラ読んだり、図書館に行って昔の愛読書の筋をどんどん話し始めたり。道端の花を見て、遥か昔の思い出が鮮やかによみがえることもあります。
認知症のある女性がすれ違ったベビーカーの赤ちゃんを上手にあやして、普段見せたことのないその豊かな表情に、一緒にいた家族が驚いたという実例もありました。認知症の人は新しいことを覚えられないだけで、昔覚えた記憶や知識、その人らしい所作などは豊かに保持しています。
ただ家の中でじっとしていたのでは、これらがよみがえる機会がない。でも、一歩外に出れば、その人の中にしまってある記憶を引き出す刺激がそこかしこにあるのです」