トランプ米大統領の「利用禁止」発言で世間の注目を浴びている中国発のアプリ「TikTok」。既にインドや香港など利用を禁止・撤退する国もあり、世界的に排除の流れが広がっている。日本でも7月28日、自民党ルール形成戦略議連会長の甘利明元経済再生担当大臣がTikTokなど中国製アプリの利用制限に関する提言をまとめる方針を示しており、大阪府や埼玉県など自治体の利用停止も相次ぎ発表された。中国の経済、社会に詳しいジャーナリストの高口康太さんが解説する。
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TikTokは、ダンスなどの短い動画を投稿して、インターネットを通じて共有できる若者に人気のサービスだ。使ったことはなくても、テレビのCMなどで存在くらいは知っている人は多いだろう。その人気は世界レベルで、米アプリ調査会社「Sensor Tower」によると、2019年の世界アプリダウンロードランキングでは米フェイスブックのメッセージアプリ「WhatsApp」に次いで2位となり、ダウンロード数は20億回を突破している。
その人気アプリが、この1か月というもの災難に見舞われ続けている。6月29日にインドで禁止されたのを皮切りに、7月頭には香港からの撤退を余儀なくされた。そして今度はトランプ米大統領が米国での事業停止をちらつかせ、米マイクロソフトへの事業売却交渉が始まった。強制的に事業を売却させられるという厳しい立場に追い込まれたTikTokだが、交渉がまとまらなければインドに続いて米国でもサービスが禁止となってしまう。TikTokのユーザーの3割がインド人、1割超が米国人とあって、ユーザーの半数近くが消失する危機だ。
なぜこんなことになってしまったのか。要因は国によってさまざまだ。インドでは、米中の対立でインド兵が死亡する惨事が起きた報復として、TikTokを含めた59件の中国アプリが禁止された。香港では、中国の「国家安全維持法」の制定で、サービスの提供を続けていると「民主派活動家の個人情報を中国共産党に渡しただろう」と疑われてしまうため、先手を打って運営を中止した。小さな香港市場にこだわって、米国などもっと大きな市場での信頼を落とすのはまっぴらごめん、という判断だったが、時すでに遅し。米国では、TikTokの運営会社であるバイトダンスが2017年に「musical.ly」という動画アプリを買収したことが「安全保障上のリスクになる」とされ、TikTokの米国事業を止めるか売るかの瀬戸際にある。
ただ、こうした要因も突き詰めて考えれば、最終的には中国に対する不信感へとたどり着く。「民間企業も政府の命令には逆らえないだろう」、「企業の手に渡った情報は全部中国政府に流れるのではないか」。たとえ一般人の個人情報だとしても、中国共産党が一党支配する国の企業への不信感は高まるばかりだ。