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医療従事者らが受けるプレッシャーはいまだに尋常ではない

ブルーインパルスの飛行を見つめる医療従事者ら(時事通信フォト)

ブルーインパルスの飛行を見つめる医療従事者ら(時事通信フォト)

 新型コロナウイルス感染症へ対応中の医療従事者への経緯と感謝をこめて、航空自衛隊のアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」が東京都心上空を飛行したのは5月29日だった。あのとき医療や介護の現場はひっ迫していたが、最近は、ドラッグストアで普通に不織布マスクを買えるようになり、ECMO(人工肺装置)が足りないという報道も耳にしなくなった。もうピンチは脱出したのかと思われがちだが、まだまだ崖っぷち状態は続いているという。ライターの森鷹久氏が、主に精神面の回復が難しい状態が続く医療と介護の現場からの声をレポートする。

 * * *
「中学生の娘には正直に話しましたが、下の子…小学生の娘には言えませんでした。私が『そう』だとしたら、家族全員、子供だけでなく夫まで仕事を休まなくてはならなくなるので……」

 ちょうど7月に入った頃、千葉県のデイホームで介護士を務める坂本さやかさん(仮名・30代)は、勤務する施設のグループ会社から新型コロナウイルスの陽性者が出た影響で、濃厚接触者ではないが「接触の可能性がある」ということでPCR検査の対象になった。6月末から7月上旬にかけては、高熱が出たり咳が止まらないなど、明らかな症状が出た人を中心にウイルス検査を実施していた時期だ。そのため、PCR検査を受けるということは、コロナに感染し発症する疑いが強い、と自他共に認めざるを得ないような風潮だった。

「上の娘に話した途端、真っ青になっていました。暗いニュースばかり見ていたせいか、ママ死んじゃうのって言われてしまって。誤解はすぐに解けましたが、自分もパパも、妹もみんな感染しているのではないかと、すごく心配していました。このことが学校に知れ渡って娘がいじめられたり辛い思いをするのは嫌なので、口止めはしたんです。ただ、本当にそれでよかったのか、今でも自信がありません。万が一、私が『クロ』だったとしたら、あの判断は間違っていたということですから」(坂本さん)

 7月末から、東京都内では1日400人以上の新規感染者が発覚するなど、いよいよ「コロナ」が身近になってきた。都内で1日100人の新規感染者が出た、という報道で悲鳴をあげていた日が、遠い昔のようである。一方で、その多くは無症状感染者だと言われるが、それで人々の気持ちを静めることにはならず、坂本さんのような葛藤に苛まれる人が増えてきた。中でも深刻なのは、医療従事者だ。終末期医療に携わる看護師、中島洋子さん(仮名・40代)が打ち明ける。

「私の職場は、コロナ患者の受け入れはしていません。だからこそ、外部からウイルスを持ち込まないよう、かなり神経をとがらせています。ましてや終末期医療の現場ですから、もし感染ということになれば即、患者の死につながってくる」(中島さん)

 以前は受けられなかったPCR検査も病院が独自で行うようになり、スタッフの感染は今のところ一例も出ていない。しかし、ニュースなどで報じられる感染者数が増え始めると、院内の雰囲気は一変した。

「たかだか一度や二度の検査で陰性だったからといって、それは、いま感染していないという証明にはならない。たった今、コロナにかかってしまったかもしれない可能性が常にあるため、プレッシャーが尋常ではありません。少し気分が悪い、熱っぽいと思っても言い出せないという若いスタッフも増え始めました。生理痛だとわかっている体の不調でも、訴えると医師や先輩看護師、さらには患者さんやそのご家族に迷惑をかけると思い、無理して仕事を続けてしまった部下が、我慢のしすぎでダウンしてしまったこともあります」(中島さん)

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