昨今自然災害や新型コロナウイルスの感染拡大など人間にとっては厳しい時代が到来している。さらには南海トラフ地震や首都直下地震も懸念されている。そこで、京都大学大学院人間・環境学研究科教授で地球科学の専門家、鎌田浩毅さんとかねてから地震活動を注視する室井滋さんが災害との向き合い方について、そして、いざという時の生き方について語り合った。
鎌田:ぼくは学生によく「起きることはすべて正しい」って言うんです。ちょっと宗教っぽいけれど、自然科学をやっていると、「これはいい」「これはダメ」って自然現象を選択することはできないんですよ。起きる現象に従って、その中でどうやって上手に暮らすか。そう話すと、学生たちの顔がガラッと明るくなるんです。
室井:たしかに、火山や地震がある場所だから、いい温泉にも恵まれているわけですし。前向きに考えるのって大切ですよね。
私、今はコロナでひどい目に遭っているけれど、ある意味で救ってもらっているかもしれないって思うんです。コロナ禍でリモートで仕事をする人が増えたり、「コロナ疎開」で田舎や近郊に住もうと考える人が増えたり、都心から離れようという動きが大きくなっていて。知らず知らずのうちに大地震や富士山噴火への備えをしているのかもしれないなって。
鎌田:社会をいい方向に変えるチャンスにすればいいんですよね。
室井:私には自分の仲間とか事務所の人とか、親戚みたいに長い付き合いの人がいますけど、都会って隣の人とも全然会話がなかったりして、頼れる人が誰もいないという人も多い。だからコロナでも、いざ感染して自宅待機になったら、食べ物をどうするのかで困ったりって聞きます。やっぱりこれをきっかけに、小さい単位でもいいからコミュニティーを作っておくといいと思うんです。
鎌田:なるほど。その通りですね。
室井:あと私が人に勧めているのは、もし自分の故郷がないなら、すごく親しい人の故郷と今のうちからお付き合いしておくとか、都会以外に“行きつけの場所”を作っておく。それが大災害の時に助けになるんじゃないかなって。
鎌田:地震や火山への備えと一緒で、普段から“人間関係の備蓄”をしておくわけですね。勉強になります。
室井:例えば5人とか10人とか仲間がいたら、焼け出される人もいれば、家が大丈夫という人もいる。ゼロの人も10の人もいるから、みんなで分け合えばいい。
鎌田:「死を恐れよ。死を考えよ」という「メメント・モリ」というキリスト教に基づく西洋哲学がありますよね。考えたくないけれど、人は必ず死ぬわけです。その死を考えてこそ、生を充実させることができる。それと同じで災害も必ず起きるわけで、ぼくは「メメント災害」と考えて、災害をただ恐れるのではなく、災害に備えつつ生を充実させて、より明るく生活してくださいと講演で話しているんです。室井さんの話はまさに「メメント災害」の実践ですね。
室井:自分が本当に守りたい人を、どうすれば守ることができるか。今からそれを頭の片隅に入れつつ、明るく生きていきたいですね。
◆室井滋/(むろい・しげる)富山県生まれ。女優。エッセイ・絵本も数多く出版し、女性セブンで現在『ああ越中ヒザ傷だらけ』を隔週連載中。本連載をまとめた旅エッセイ集『ヤットコスットコ女旅』は現在6刷のベストセラーになっている。
◆鎌田浩毅/(かまた・ひろき)東京都生まれ。理学博士。京都大学大学院人間・環境学研究科教授。専門は地球科学・火山学・科学コミュニケーション。近著に『理学博士の本棚』『富士山噴火と南海トラフ』『地学ノススメ』など。
※女性セブン2020年8月20・27日号