新型コロナの新規感染者数増加が止まらない。それを受け、大阪府では「5人以上の会食自粛」が呼び掛けられ、飲食店の営業時間短縮や自粛を再び要請する自治体も出てきた。食事の場で人が集まることが、どんどん難しくなっている。
影響はヤクザの世界にも及んでいる。巨大な組織力を誇る指定暴力団・六代目山口組(司忍組長)では全国の直系組長が揃う定例会などの会合を休止し、一部の組では組事務所を閉鎖したという。また、多数の構成員を抱え関東最大の指定暴力団である住吉会(関功会長)も2月以降は定例会を休止したままだ。
伝統的な組では、「部屋住み」と呼ばれる駆け出し時期に組事務所で寝泊まりもするヤクザ社会。人間関係は密接だ。会食のリスクが取り沙汰される中、裏社会や暴力団の取材を続け、『ヤクザ500人とメシを食いました!』の著書があるフリーライターの鈴木智彦氏は、ヤクザの組織における食事の重要性について、こう明かす。
「ヤクザの親分たちのお決まりの挨拶は、『どうだ、飯食ったか』です。戦中派の親分たちは特にそうでした。そして『まだ』と答えれば必ず食事に連れていってくれます。文字通り、仕事がない状態を”飯が食えない”と表現するように、満腹感は幸福に直結している。口先だけではなく、あなたを思い遣っているという意思表示、アピールなんだと思います。」
ヤクザの食事には、彼ら独特の筋や掟、タテ社会の不文律が見事に反映されている。
「親分のお付きの若い衆たちはメシを食える時間がとれない時も多いため、時間が空いたらコンビニなどに寄り、おにぎりやサンドイッチを食べる。にもかわらず、親分に呼ばれれば食事に同席せねばならない。ヤクザ社会では親分の命令が絶対です。若い衆は、親分に勧められた食事をすべて完食せねばなりません。満腹でも『ノー』と言うことは許されない。そのため運転手やボディガードになった若い衆は、みるみる太っていきます。これを通称”ヤクザの無理メシ”と呼びます。『無理メシ』をかっ込む若い衆を、親分たちは嬉しそうに見ていることが多い。貧困家庭に育った人が多いからかもしれません」(鈴木氏)