人によって言うことが大きく異なり、「アスリートファースト」どころではない東京五輪の2021年夏の開催問題。予定通り開催か? 中止か? さらに延期か? 憲法学者で慶應義塾大学名誉教授の小林節氏(71)は次のように考える。
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コロナ禍という有事に安倍政権がやったことといえば、費用対効果が疑問視されるアベノマスクや、業者の選定基準が不透明だった持続化給付金事業などが挙げられます。国民のためよりも身内の利益をはかり、与党は「今だけ、自分だけ、お金だけ」しか考えていない。危機管理能力のなさが露呈しており、コロナの危機的状況を乗り越えて五輪を開催する政治的力量などないことは明白です。
政治家の使命は、主権者である国民を幸福にすること。そして国民が幸福を感じる条件は「自由、豊かさ、平和」の3点セットです。しかし現在、感染拡大でその全てが奪われている。憲法で保障された財産権の補償の規定を無視した自粛要請を、五輪のためにこれ以上行なうべきではない。
仮に日本が感染を抑えたとしても、パンデミックとは地球規模で、時差を伴って波状的に起こるものです。このグローバル化された時代に、1年延期で大した準備もできないまま開催しても、五輪どころではない国も多いでしょう。
強行開催すれば、会場や選手村でもクラスターが発生し、運営スタッフも不足して五輪が破綻します。それでも開催を既定路線とするのは、科学的で冷静な視点を欠き、政治的功名心を優先した判断と言わざるを得ません。日本は戦後復興で世界から優等生とみられましたが、強行開催で恥をさらせば、日本が世界から軽んじられるターニングポイントになってしまうかもしれません。
【PROFILE】こばやし・せつ/弁護士、慶應義塾大学名誉教授(憲法学)。改憲論者の立場から安倍政権の改憲案を批判している。
※週刊ポスト2020年8月28日号