8月17日からアメリカ民主党の党大会が開かれている。バイデン氏、ハリス氏が正式に正副大統領候補に選出される華々しい舞台である。ところがそこに、トランプ擁護メディアの爆弾が襲った。ニューヨーク在住ジャーナリスト・佐藤則男氏のリポート。
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民主党大会の実況中継を見て強く感じるのは、アメリカ大統領選挙とは、テレビ局に代表されるメディアの代理戦争であり、それによって有権者は敵対心を煽られ、政治家もそんなメディアに依存している現実だ。これが過度に進めば、政治家を堕落させ、必要な政策論争はますますなくなり、口からでまかせの争いに終始するようになる。共和党も民主党も、そういう政治状況を作ることに加担している。明らかにアメリカの退化である。
トランプ陣営を支える代表格はFOXニュースだ。おかしいくらいトランプ氏に忠誠を誓い、徹底的に支える。その180度裏側の戦場に立つのは、民主党に忠実なCNNとMSNBCである。どんな問題であってもバイデン-ハリス陣営が正しく、トランプ-ペンス陣営はこの世の諸悪の根源なのである。民主党の議員たちも同じように言う。
党大会の中継が始まる前に、FOXは民主党の“悪行”を念入りに報じていた。ポートランドで起きたデモ隊の暴動を取り上げ、民主党のことを「極端な左翼集団」で「無政府主義者」が牛耳っており、「革命を狙っている」党であると断言した。さらに、民主党に政権を渡せば、移民をどんどん増やし、外国人に国を明け渡すことになるのだという。
それはまあいつもの光景と言えなくもないが、民主党大会を直撃する破壊力抜群の爆弾も用意していた。同局でも最も人気の高いアンカーマンで、反民主党、反バイデンの急先鋒であるショーン・ハニティ氏の情報として、バイデン氏が脳神経の手術を3回受けたことがあると報じたのである。事実であれば、これまで疑惑視されていたバイデン氏の病気説が思いがけず確認された形になる。番組では、仮にバイデン氏が大統領になっても早期退任することになる、という説まで出た。これは、痴呆症が取り沙汰されるバイデン氏にとって、手痛い話題になることは確実だろう。
一方、CNNとMSNBCは、トランプ氏はアメリカ史上最悪の大統領で、再選されればアメリカは滅びると論じた。筆者の感想だが、確かにFOXやトランプ支持者の話よりは、民主党大会で演説する民主党員のほうが安心感はある。憲法が保障する人権、すべての国民が社会的に正しく扱われる鉄則、自由、平等、博愛の精神、幸せの追求などを強調する。個人的には、党大会初日の最大のスターはオバマ夫人だった。生真面目に、易しい言葉で民主主義の鉄則を述べ、聴衆・視聴者の共感を得られたのではないか。FOXの爆弾情報は見どころがあったが、オバマ夫人の演説を「アメリカを社会主義化する動き」と評するのは、やや勇み足だったのではないか。