麻生太郎副総理から「呪われた五輪」とまで言われてしまった東京2020。果たして予定通り来年夏の五輪開催は実現するのだろうか。元外務省主任分析官の佐藤優氏(60)は次のように考える。
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私は2つの理由から開催できないと考えています。
第一に、開催のための必須条件であるワクチンの開発が間に合いそうにありません。問題なのは開発の遅れというよりも、ワクチン開発の国際協力が進んでいないことです。どこかの国でワクチンができたとしたら、争奪戦になってしまうでしょう。いま必要なのは、五輪開催のための国際協調ではなく、ワクチン開発のための協調なのです。
第二に、自国での感染が拡がる中で、仮に開催しても「オリンピックに出よう」という機運が高まらない。多数の死者・感染者を出したアメリカやヨーロッパは感染に対する不安が蔓延し、中南米でも感染ペースが速まっています。中国のような権威主義体制の国は選手を参加させるかも知れませんが、全世界的なオリンピックになり得ないことが目に見えている。そうすればオリンピックそのものが成り立ちません。
国家としての優先事項を考えたときに、オリンピックという国際的な事業は二次的、三次的な事項なのです。どの国も自国の感染抑止で手一杯になっている。開催に協力するメリットがありません。
残るのは中止の判断をいつ下すかという問題になる。アメリカに「川を渡っているときに馬を乗り換えるな」という格言がありますが、コロナ禍の非常時は川を渡っている状況で、オリンピックの中止は馬の乗り換えにつながります。中止決定のタイミングを見誤れば、内政も外交も大混乱を招くでしょう。
【PROFILE】さとう・まさる/元外務省主任分析官、作家。在英大使館、在露大使館、外務本省国際情報局分析第一課などで勤務。
※週刊ポスト2020年8月28日号