音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、三遊亭歌武蔵(うたむさし)の斬新で珍しい演出の古典についてお届けする。
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落語プロモーターの夢空間がユーチューブで「夢空間チャンネル」を6月末に開設、手始めに無観客の「落語教育委員会」を四夜連続で配信した。第一夜が三遊亭歌武蔵『猫の皿』、二夜は三遊亭兼好『干物箱』、三夜が柳家喬太郎『転失気』で、四夜は打ち上げ座談会だった。
「落語教育委員会」は柳家喜多八が歌武蔵に「もっと勉強会をやるべき」と意見し、「じゃあ一緒にやってください」となって喬太郎も誘い2004年に始まった三人会で、兼好は喜多八没後に参加。全員が僕の大好きな演者だが、最大のポイントは歌武蔵の存在だ。寄席の出番では角界出身という経歴を活かした相撲漫談(通称『支度部屋外伝』)で沸かせることが多く、確かにそれも圧倒的に面白いが、そうした話術のセンスがそのまま持ち込まれた古典落語こそ歌武蔵の真骨頂。
今回配信された『猫の皿』は初めて聴いたとき茶店の爺さんのクレイジーなキャラに衝撃を受けた演目だ。店先の木に死体がブラ下がってても気にせず、魚が死に絶えるほど汚染された川の水で茶を煎れて客に出し、一人でバカ笑いし続けて咳き込む茶店の爺さんのバカバカしさは歌武蔵にしか出せない。
7月5日には有楽町・よみうりホールで定員半減ソーシャルディスタンス対応の「落語教育委員会」が開かれ、歌武蔵は『お菊の皿』を演じた。歌武蔵版のお菊は、なんと「幽霊なのに太ってる」という設定。もうそれだけで最高に可笑しい。「美人だから」じゃなくて「太ってて面白いから」人気が出るのだ。