その日のおふたりに笑みはなく、お車の窓は閉め切られたまま。いつものように沿道の人々に向けて御手を上げられることもなかった。天皇皇后両陛下の緊張感が、ありありと伝わるようだった。
8月15日、全国戦没者追悼式が日本武道館(東京・千代田区)で開催された。参列者は、新型コロナの影響で過去最少の約540人。「この状況での開催は妥当か」(政府関係者)という声も上がる、異例の状況での開催だった。
しかし、両陛下は揺るぎないお気持ちで、参加の意思を示されたという。式中に、陛下がマスク姿で述べられたおことばには、国民を思う強いお気持ちが表れていた。
《私たちは今、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、新たな苦難に直面していますが、私たち皆が手を共に携えて、この困難な状況を乗り越え、今後とも、人々の幸せと平和を希求し続けていくことを心から願います》
これまで、おことばに新たな表現が盛り込まれることはあった。だが、新しい「段落」が加えられて、さらにコロナのような戦没者以外の話題に触れられたのは極めて異例だ。ある皇室ジャーナリストは相当な葛藤があったのではないかと話す。
「あくまで“戦没者の御霊に祈りを捧げる場”である追悼式で、感染症について触れることは簡単ではありません。上皇陛下は阪神・淡路大震災や東日本大震災が起きたときでも、式の場で触れることはありませんでした。それほど皇室にとって、過去の戦争は重大で絶対的な事柄です。
それだけに、天皇陛下はたいへん悩まれたと思います。自然な形で文言を盛り込めるよう推敲を重ねられ、強いご覚悟のもとで“コロナに言及する”と決められたのでしょう。新しい時代の皇室の在り方を考え抜き、いつも国民とともにあることを示そうとされたのです。“コロナに触れないわけにはいかない”という陛下の強い意思がにじみ出ているように感じました」
今年は多くの公務が中止となり、追悼式の出席が両陛下にとって「今年最後の外出を伴う式典」となる可能性も高い。陛下はもちろん、雅子さまも相当な緊張感で臨まれたはずだ。
「御代がわりでご多忙だった昨年、雅子さまはお体が左右にふらつくなど、万全でないご体調で無理を押して出席されました。それだけのご覚悟をお持ちですから、今年の追悼式にも、かける思いは極めて強かった」(宮内庁関係者)
コロナ禍に苦しむ国民のため、雅子さまは全身全霊で式に臨まれた。
※女性セブン2020年9月3日号