資金を貯めたら自分好みの飲食店を始めるんだ、と夢を語る会社員は珍しくなかったが、今では外食産業に加わろうという人は減っているかもしれない。新型コロナウイルスの感染拡大により3密対策が必須となったいま、どれだけ客が詰めかけて繁盛しているように見えても、内実は火の車で仕事を続けられないと働く人たちは嘆いている。ライターの森鷹久氏が、緊急事態宣言を乗り越えはしたが、この先も飲食店の仕事を続けられない状態に追い込まれている人たちの声をレポートする。
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せっかくの夏休み・盆休みも、今年ばかりは満喫できなかったという人が大半だろう。毎年海外旅行に行っていたが国内旅行にシフトした、沖縄に行く予定だったが近場にした、とは筆者の周囲からも聞こえてくるほどである。かくいう筆者は、例年カネもヒマもなかったが、今年はヒマだけはある、ということで、出来るだけ経済を回すべく、感染対策に真面目に取り組む店を見つけては、努めて外食するよう心がけた。そこで目にしたのは、まさに「泣きっ面に蜂」としか言いようがない、外食産業のおかれた状況であった。
「連日、昼から夜までとにかく大盛況。これが、正常な時期でのことなら大歓迎なんですが、コロナ禍で全く対応できない。混雑で接客が回らず、毎日クレームの雨嵐」
中村まり子さん(40代・仮名)は千葉県内のうどん店従業員。夏休みにどこにも行けないからせめて近場で外食でも、という家族連れなどの客が連日押し寄せ、店はパニック状態に陥っているという。コロナ禍の影響で客足が落ちていたことから、本来6人勤務だったところを4人まで減らしていたが、夏休みの繁盛に合わせて急遽辞めたパート従業員に戻ってきてもらった。だが、コロナ以前より商品提供には時間がかかり、接客も全く追いついていないと嘆く。
「狭い駐車場には車が溢れ、交通整理までしなきゃなりませんし、店の外には今まで見たこともない行列ができる始末。消毒作業もどうしてもおざなりになってしまい、密の状態がができることも…。オーダーのミスも頻発して、客から怒鳴られることも増えました。にも関わらず、本社からは従業員数を減らせ、時給を減らすことも検討している、なんて言われるんだから、一斉に辞めてやろうかとみんなで話しているんです」(中村さん)
埼玉県内のショッピングモール内にあるとんかつ店店長・堀田詩織さん(仮名・30代)も、同様の「パニック」に陥っていると話す。
「夏休みに入り、ショッピングモールには例年の夏休みと変わらないかそれ以上のお客さんが来られています。モール内で感染者が出たら面倒なことになる、と本社の責任者もピリピリしていて、とにかく消毒作業には気を使っています」(堀田さん)