JRや大手私鉄など全国の36社局が発表した「鉄道係員に対する暴力行為の件数・発生状況について」(2019年度)のレポートでは、駅員などの鉄道係員に暴力行為を働いた人は、60代以上が20.7%といちばん多い。
2位は50代、3位は40代(20代と同率)で、全体の約6割を40代以上の中高年が占めている。精神科医の片田珠美さんは、こう分析する。
「日本は長らく年功序列社会で、多くの中高年が“年長者には絶対に従うべきだ”という価値観のもと、年長者から理不尽なことをされたり言われたりしてきました。自分がされてきて嫌ならば、他人にやらなければいいのですが、どうしても繰り返してしまう人が少なくない。これを精神分析では『攻撃者との同一視』といいます。こうした負の連鎖がある限り、組織内でのパワハラも、家庭内での虐待もなくならない」
なかでも、社会的な成功を収めた人は、この傾向が強いという。
「自分は成功した」「自分は特別だ」という特権意識が、ほかの人には許されないことでも自分だけは許される、と勘違いさせ、「なんとしてでも自分の言うことを聞かせたい」という支配欲求さえ引き起こしてしまう。
五輪担当相の橋本聖子氏(55才)は、2014年2月のソチ五輪で団長を務めた際、五輪閉幕後の打ち上げで、フィギュアスケート選手の高橋大輔に抱きつき、無理矢理キスをしたと報じられている。
2018年には、財務官僚のトップである事務次官が、女性記者を呼び出してセクハラを働き更迭。どちらも明らかに、特権意識と支配欲求が、一線を越えさせてしまった例だ。
加齢によるホルモンの減少と脳機能の低下といった、肉体的な影響。職場や家庭内で築き上げたポジションに対する満足感。こうした要因がある以上、誰もがパワハラや虐待の「加害者予備軍」なのである。