いま声優志願者は30万人にのぼるとも言われるが、現実に声優という仕事に就いている人は1000人程度とみられている。そのうち、声優の仕事だけで生活できている人となると、さらに限られてくる。なかでも「アイドル声優」と呼ばれる人になると、さらに選抜された人たちだ。いったん、人気声優への階段をのぼりながら転落する人も少なくない。俳人で著作家の日野百草氏が、今回は、現在は夜のサービス業で働く元アイドル声優についてレポートする。
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「えへへ、バレてしまってましたか」
愛くるしい小柄な容姿にブレスたっぷりのキャンディボイス、かつて、アイドル声優としての資質をすべて備えていたはずの彼女と再会したのはコロナ禍「夜の街」の取材中だった。街で声をかけてきたのはなんと彼女の方。彼女は夜のサービス業で働いていた。仮にモモさん(仮名)とする。彼女が好きな昔の魔法少女アニメ(2代目のほう)のヒロイン名だ。私も業界を離れて久しい身とはいえ、今回は内容が内容だけに年齢含め身バレ防止をとくに徹底している。
「ずっと知ってたなんてさすが上崎さんですねー、声かけなきゃよかった!」
もちろん私の今の仕事を知らないモモさんは私を編集長時代のまま本名で呼ぶ。もう10年以上前の話。彼女は背が小さくて女児のようだった。少しふっくらした以外はそれほど変わらない。違いは、あの頃のフリフリ服ではなく身を隠すほどのもっさりしたパーカーだということ。
「フリーになってからも続けてます。でもやっぱりあの時からバレてたのかー」
「バレてしまってましたか」「知ってた」「バレてた」というのは、彼女が当時から風俗サービスのバイトをしていたことを私が知っていたことだ。じつは口外しないだけで、私以外も業界関係者数名がモモさんの「バイト」を知っていた。1998年、2004年の人気女性声優のAV出演騒動、2007年の大手声優事務所代表取締役の逮捕、およそ15年を経た現在ならSNSを中心に大変な騒動となったことだろうが、匿名掲示板が関の山の1990年代後半から2000年代、ついこの前のようでいまや忘却の彼方の時代、無邪気に声優を目指す令和の子たちが知るはずもない。疑惑というだけならもっとあるが真相は横に置く。そしていまもモモさんは夜のサービスを続けている。事務所も辞めてフリー、いまは声の仕事はないので、職業上はこちらが本業になってしまっていた。