ライフ

芯を抜いたトイレットペーパー 50年前はどう使われたか?

昔はティッシュの代わりにトイレットペーパーを使った(写真はイメージ)

 認知症の母(85才)を支える立場の女性セブンN記者(56才・女性)が、介護の裏側を綴る。今回は、母の行動から思い出される、懐かしい記憶についてのエピソードだ。

 * * *
 母の部屋のテーブルに芯を抜いたトイレットペーパーが置いてあった。穴の内側からペーパーを引き出してティッシュ代わりに使うのだ。奇妙な風景だが、50年前、高度経済成長期と呼ばれたキラキラした時代の名残だ。

子供の頃、食べるものすら「なーんもなかった」

「ママ! トイレットペーパーはいま、貴重品なんだよ!!」

 そう声を荒らげてしまったのはこの春、コロナ禍のデマ騒ぎでペーパー類が品薄になったとき。私の住む地域ではかなり長引いたので、母が無頓着に使うことに少々神経質になっていた。しかもトイレではなくテーブルに置いて、鼻をかんだりその辺を拭いたりするのに使っているのだ。

 しかし、ロールの芯を抜いて中からペーパーを引き出すという使い方を見て、現実のイラ立ちは吹っ飛んだ。奇妙なその使い方は、半世紀前にも見たことがあるのだ。

 私はまだ小学校の低学年。小学1年生のときには大阪万博があり、親戚で団体旅行を組んで訪れたり、大賑わいのデパートの催事場で喜々として買い物をする母について回ったり、断片的な記憶だが、つねにキラキラした雰囲気に包まれていた。その中でも強烈に記憶に残っているのが、母が催事で買ってきたあるアイディアグッズだ。

 黄色い毛糸で編んだシルクハット形をしたもので、てっぺんに穴が開いていた。芯を抜いたトイレットペーパーに被せると、穴からペーパーがスルスル取り出せる。

「手品みたいでおもしろいじゃない!」と、母は私と一緒になってはしゃいでいた。

 いまのように箱入りティッシュが気軽に使える時代ではなかった。水洗トイレが普及し始めた時期で、ロールになったトイレットペーパーも母たちには画期的だっただろう。それを卓上でも使えるようにと考案された商品だった。

「ママが子供の頃はね、ものがなーんにもなかった。今日食べるものさえなかったんだから」と、母はよく言った。

“ものがない” というのは当時もいまも、正直、ピンとこないのだが、生活必需品でないもので暮らしを彩る喜びを、全身で享受していた母の姿はよく覚えている。

関連キーワード

関連記事

トピックス

9月に成年式を控える悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
悠仁さまが学園祭にご参加、裏方として“不思議な飲み物”を販売 女性グループからの撮影リクエストにピースサイン、宮内庁関係者は“会いに行ける皇族化”を懸念 
女性セブン
V9伝説を振り返った長嶋茂雄さんのロングインタビューを再録
【長嶋茂雄さんロングインタビュー特別再録】永久不滅のV9伝説「あの頃は試合をしていても負ける気がしなかった。やっていた本人が言うんだから間違いないよ」
週刊ポスト
山尾志桜里氏(=左。時事通信フォト)と望月衣塑子記者
山尾志桜里氏“公認取り消し問題”に望月衣塑子記者が国民民主党・玉木代表を猛批判「自分で出馬を誘っておいて、国民受けが良くないと即切り捨てる」
週刊ポスト
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
オンラインカジノを利用していたことが判明した山本賢太アナウンサー(ホームページより)
フジテレビ・山本賢太アナのオンラインカジノ問題で懸念される“局内汚染”「中居氏の問題もあるなかで弱り目に祟り目のダメージになる」
週刊ポスト
「〈ゆりかご〉出身の全員が、幸せを感じて生きられるのが理想です。」
「自分は捨てられたと思うのは簡単。でも…」赤ちゃんポスト第1号・宮津航一さん(21)が「ゆりかごは《子どもの捨て場所》じゃない」と思う“理由”
NEWSポストセブン
都内の人気カフェで目撃された田中将大&里田まい夫妻(時事通信フォト/HPより))
《ファーム暮らしの夫と妻・里田まい》巨人・田中将大が人気カフェデートで見せた束の間の微笑…日米通算200勝を目前に「1軍から声が掛からない事情」
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
2013年大阪桐蔭の春夏甲子園出場に主力として貢献した福森大翔(本人提供)
【10万人に6例未満のがんと闘う甲子園のスター】絶望を支える妻の献身「私が治すから大丈夫」オリックス・森友哉、元阪神・西岡や岩田も応援
NEWSポストセブン
ブラジル公式訪問中の佳子さま(時事通信フォト)
《佳子さまの寝顔がSNSで拡散》「本当に美しくて、まるで人形みたい」の声も 識者が解説する佳子さま“現地フィーバー”のワケ
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 食卓を汚染する「危ない輸入冷凍食品」の闇ほか
「週刊ポスト」本日発売! 食卓を汚染する「危ない輸入冷凍食品」の闇ほか
NEWSポストセブン