新型コロナで病院経営が悪化し、医療従事者のボーナス減が話題となったが、背景にはコロナ前からの“歪み”もある。まず知っておきたいのが、医師の収入には歴然たる地域差があることだ。
厚生労働省の分科会が示した「医師偏在指標」(*)によると、全国で医師が最も多いのは東京(329.0人)、最も少ないのは岩手(169.3人)。一方、厚労省の「賃金構造基本統計調査」(2019年)では勤務医(男性)の平均年収は、東京が約1107万円(平均年齢40.6歳)に対し、岩手が約1739万円(同59.6歳)と大差がついている。
【*人口10万人当たりの医師数をベースに、地域の医療需要と供給体制を勘案した指標。単位は人数で表わされる】
医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師はこう指摘する。
「医師が多い東京では、一度辞めると良い転職先がない。薄給でも、キャリアに箔をつけるため都内の名門病院で働き続ける人もいる。一方、優秀な若い医師は技術や能力に見合った待遇を約束され、地方の医療機関に流れる動きがある」
優秀な人材が流出した都心の医療現場では、「良い人材が集められず患者が呼べない病院ほど、報酬を得るために無理をしがちです。本来は不必要な手術を行ない、事故を起こすケースもある」(上医師)という。
土地代や人件費など固定費が高い都心部の病院経営はとりわけ厳しい。そうした状況下で、近年問題視されているのが、「無給医」の存在だ。
文科省の調査(今年2月公表)によると、全国108の大学病院のうち半数以上の病院に2800人以上の「無給医」がいるとされる。