国内

じんわり広がる「日記ブーム」 失われる「個」取り戻す役割

日記ブームは芸能界にも広がる(写真/アフロ)

《四月八日(水) 無精ヒゲを剃ろうと思ったが、やめた。高座がないのだから意味がない。三月下旬のついこの間まで高座があったのに、何だか狐に鼻をつままれたようだ》(落語家)

《四月二十日(月) 朝、出勤するとうちの店のレジ前に透明の幕がぶら下がっていた。遅ればせながら、他のスーパー同様、飛沫感染の防止策に乗り出したようだ》(ミニスーパー店員)

 医療従事者、教師、馬の調教師、専業主婦、小説家など、多様な職業の77人が、新型コロナウイルスによって緊急事態宣言が出された今年4月をどう過ごしたのか、日記形式で綴った書籍『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』(左右社)が話題だ。口コミで評判が広がり、30近いメディアが書評や記事を掲載しており、世の中にじんわり日記ブームが浸透している。

 このムーブメントは芸能界にも波及しており、歌手の木村カエラ(35才)は2019年1月から今年3月までの日常を記録した日記エッセイ『NIKKI』(宝島社)を出版。

 女優の桜庭ななみ(27才)は雑誌のインタビューで20才から毎日欠かさず「10年日記」をつけていると明かし、今年5月に第1子を出産したフリーアナウンサーの高橋真麻(38才)も、「子供が反抗期を迎えたとき、そっとリビングに置いておくため、育児日記を毎日つけています」と語っている。

 古来、洋の東西を問わず日記は存在し、日本でも『土佐日記』や『更級日記』はじめ、無数の日記が綴られてきた。

 しかし、スマホひとつで読書も支払いも完結し、ツイッターやフェイスブックをはじめとしたSNSにいくらでも日々の出来事を投稿できる令和2年のデジタル社会において、なぜ人々は日記帳を開くのだろうか。

日記を書くことで「私は私だ」とわかるようになる

「きっかけはコロナでスーパー通いが始まったこと。無駄なものを買わないように、何をいくらで買ったか手帳にメモすることにしたんです。そのとき一緒に、その日Zoomで友達としゃべったこととか、テレビで見た面白い話とかを書き留めるようになりました。

 会社もリモートワークで、土日もどこにも出かけられない。ひとり暮らしで新しいドラマも始まらず曜日の感覚も失われていくなかで、日記に書いた日付と出来事だけが、自分が生きていると証明してくれているような気持ちになって、自粛が明けてスーパーに頻繁に行かなくなったいまでも、日記を書き続けています」

 こう語るのは都内在住の30代女性だ。最近はこの女性のように、コロナを機に日記を書き始める人が増えている。

『仕事本』の編集を担当した左右社の青柳諒子さんが指摘する。

「読者のかたからは、『この本を読んで、日記を書こうと思いました』との声をいただいています。とはいえ、この本ははじめから日記を出版しようと思って出したわけではありません。コロナで普段の働き方が一変した際、“ほかの人は何をしているんだろう”という素朴な疑問から生じた企画で、どんな形式がいいか社員全員で話し合い、日記がいちばんいいのではないかという結論に落ちつきました。

 小説家やライターなどいわゆる“プロ”の書き手ではないかたにも数多く依頼しましたが、内容はどれも素晴らしく、ほぼ手を加えていません」

《四月十二日(日) 雨 ランニングは中止。十一時過ぎに市場に行き、食材を買って帰宅。昼食は妻とスパゲティ。今日は新聞の連載小説を執筆した。蟄居生活のストレス解消のため、夕飯は高い牛肉ですき焼き》

関連キーワード

関連記事

トピックス

初めて沖縄を訪問される愛子さま(2025年3月、神奈川・横浜市。撮影/JMPA)
【愛子さま、6月に初めての沖縄訪問】両陛下と宿泊を伴う公務での地方訪問は初 上皇ご夫妻が大事にされた“沖縄へ寄り添う姿勢”を令和に継承 
女性セブン
中村七之助の熱愛が発覚
《結婚願望ナシの中村七之助がゴールイン》ナンバーワン元芸妓との入籍を決断した背景に“実母の終活”
NEWSポストセブン
松永拓也さん、真菜さん、莉子ちゃん。家族3人が笑顔で過ごしていた日々は戻らない。
【七回忌インタビュー】池袋暴走事故遺族・松永拓也さん。「3人で住んでいた部屋を改装し一歩ずつ」事故から6年経った現在地
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で天皇皇后両陛下を出迎えた女優の藤原紀香(2025年4月、大阪府・大阪市。撮影/JMPA)
《天皇皇后両陛下を出迎え》藤原紀香、万博での白ワイドパンツ&着物スタイルで見せた「梨園の妻」としての凜とした姿 
NEWSポストセブン
ピーター・ナバロ大統領上級顧問の動向にも注目が集まる(Getty Images)
トランプ関税の理論的支柱・ナバロ上級顧問 「中国は不公正な貿易で世界の製造業を支配、その背後にはウォール街」という“シンプルな陰謀論”で支持を集める
週刊ポスト
“極度の肥満”であるマイケル・タンジ死刑囚のが執行された(米フロリダ州矯正局HPより)
《肥満を理由に死刑執行停止を要求》「骨付き豚肉、ベーコン、アイス…」ついに執行されたマイケル・タンジ死刑囚の“最期の晩餐”と“今際のことば”【米国で進む執行】
NEWSポストセブン
石川県の被災地で「沈金」をご体験された佳子さま(2025年4月、石川県・輪島市。撮影/JMPA)
《インナーの胸元にはフリルで”甘さ”も》佳子さま、色味を抑えたシックなパンツスーツで石川県の被災地で「沈金」をご体験 
NEWSポストセブン
何が彼女を変えてしまったのか(Getty Images)
【広末涼子の歯車を狂わせた“芸能界の欲”】心身ともに疲弊した早大進学騒動、本来の自分ではなかった優等生イメージ、26年連れ添った事務所との別れ…広末ひとりの問題だったのか
週刊ポスト
2023年1月に放送スタートした「ぽかぽか」(オフィシャルサイトより)
フジテレビ『ぽかぽか』人気アイドルの大阪万博ライブが「開催中止」 番組で毎日特集していたのに…“まさか”の事態に現場はショック
NEWSポストセブン
豊昇龍(撮影/JMPA)
師匠・立浪親方が語る横綱・豊昇龍「タトゥー男とどんちゃん騒ぎ」報道の真相 「相手が反社でないことは確認済み」「親しい後援者との二次会で感謝の気持ち示したのだろう」
NEWSポストセブン
「日本国際賞」の授賞式に出席された天皇皇后両陛下 (2025年4月、撮影/JMPA)
《精力的なご公務が続く》皇后雅子さまが見せられた晴れやかな笑顔 お気に入りカラーのブルーのドレスで華やかに
NEWSポストセブン
真美子さんと大谷(AP/アフロ、日刊スポーツ/アフロ)
《大谷翔平が見せる妻への気遣い》妊娠中の真美子さんが「ロングスカート」「ゆったりパンツ」を封印して取り入れた“新ファッション”
NEWSポストセブン