東京五輪を楽しんでいるはずが、肥大し続けるばかりのコロナ禍による社会不安。今年ほど期待外れで落差のある年はない。そんないま、家族や地域を守るためと称して自分の価値観を一方的に押し付けるなど、SNSで他人を中傷する行為がエスカレートしている。実のところ、これらの行為は、過剰な愛と正義感によるものではないだろうか。そんな行為の代表例はこの3つだ。
【SNS中傷】
SNSは楽しい半面、直接誹謗中傷されるリスクがあり、テレビ番組での演技を契機に叩かれた女子プロレスラーが亡くなったケースも。誹謗中傷の発信者は今後立件される可能性もあるが、その裏には偏った正義感と怒りがあったという。
【自粛警察】
新型コロナウイルス感染拡大防止の緊急事態宣言下、不要不急の外出をする人や営業を自粛しない店を攻撃する自警団的な「自粛警察」が発生した。最近はマスク不着用を注意する「マスク警察」、帰省者を監視する「帰省警察」も出現している。
【ポテサラ論争】
「総菜コーナーでポテトサラダを買おうとした幼児連れの女性が、高齢男性から『母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ』と怒鳴られるのを目撃した」とのつぶやきがSNSに投稿され、13万件超のリツイートがつき賛否両論。論争に発展。
不寛容の風潮がコロナ禍で拡大したいま、この3例は、「よりギスギスした日本をよく表している」と、新潟青陵大学大学院教授の碓井真史さん(社会心理学)は言う。
「ポテサラ論争のような街中で説教をする中高年は、以前からいました。彼らは、会社員時代は“おれの話を聞け”という欲求がある程度満たされていたのですが、定年後は誰からも相手にされなくなり、駅員などを相手に苦情を言うのが関の山。ポテサラ論争は、そのうっぷんを一般の人にぶつけている事例といえます。
思い浮かんだことや古い価値観などは心の中にとどめればいいのに、老化で抑制力が弱くなると文句を言いたくなるのです」(碓井さん)
SNSに関しては、以前も世間を騒がせたことがあった。
「“保育園落ちた。日本死ね”に代表されるように、もともと言葉が荒れやすい文化がネットにはあるんです。発信側が深く考えず、“死ねばいい”みたいな中傷を書き込むと、中傷に慣れていない受け手の当事者は、想像以上に傷ついてしまう。事件化しないまでも、日本中でいま、同様のことが起きているわけです」(碓井さん)
※女性セブン2020年9月10日号