東京のど真ん中に、意外な境界線がある。いまだ境界が画定されていなかったり、ビルの中に区境が設定されているのだ。ショッピングモール「銀座ナイン」の地番の謎、飯田橋駅ビル内の区境ホールについて紹介する。
銀座ナインの地番は「中央区銀座8-7先」
日本を代表する繁華街・銀座のある中央区は、戦後に京橋区と日本橋区を統合して発足した。銀座のあった京橋区は、外濠川や汐留川といった河川に囲まれ、区境にもなっていた。ところが、戦後の復興期に瓦礫や残土で埋め立てられ、境界の目印がなくなった。
1964年の東京五輪に向け、埋立地の上に高速道路が架けられると、高架下に商店街が形成されたため、中央区、千代田区、港区の間で帰属問題が浮上。各区の税収を左右することから議論も白熱したが、確定されないまま資産価値の高い境界未定地となった。
ここに建つ施設に正式な住所はなく、たとえば銀座ナインは「中央区銀座8-7先」となるが、あくまで便宜上のものだという。
外濠の上にある「区境ホール」
区境は河川や道路を基準にする場合がほとんどだが、ビルの中に区境がある珍しい場所もある。
飯田橋駅の駅ビル、飯田橋セントラルプラザ・ラムラの辺りは、かつて江戸城の外濠の一部だった飯田濠で、濠は新宿区と千代田区の区境になっていた。
1970年代に行なわれた再開発事業により濠が埋め立てられ、その上に駅ビルが建設された。この時、行政上の不都合が生じないよう、ほぼ直線だった区境を、事務棟が新宿区、住宅棟が千代田区の管轄になる“S字”のような形に引き直してある。
両区をまたぐところには吹き抜けの「区境ホール」が設けられ、床には新宿区と千代田区の区境を表わすプレートが埋め込まれている。
地図製作■タナカデザイン
※週刊ポスト2020年9月4日号