【書評】『自伝/アピオーンへの反論』/フラウィウス・ヨセフス・著 秦剛平・訳/青土社/4600円+税
【評者】嵐山光三郎(作家)
訳者の秦剛平は頭髪がジャングルみたいにモサモサで口髭はタワシのごとき豪快勇壮な宗教学者である。オックスフォード大学客員教授として、ユダヤ歴史家ヨセフスの研究に生涯を捧げてきた。
ヨセフスは古代ユダヤ民族の軍人で、ローマに拘束された祭司を救出すべく遠征したが、強力なローマ軍との戦いに敗れ、投降して『自伝』『アピオーンへの反論』など膨大な史書を残した。
ユダヤの司馬遷(「史記」)と並び称され、敗者の目で歴史を刻明に書き残した。青土社からは『七十人訳ギリシア語聖書』(「エレミヤ書」「ヨシュア記」「サムエル記」)などが訳された。ヘブライ語よりも一〇〇〇年以上古いギリシア語から訳した。ヨセフスの著作は、旧約、新約聖書の欠けをおぎなう基礎文献として読まれてきた。
現在はケンブリッジ大学フェロー終身会員として、日本とイギリスを行き来する老骨先生(78歳)だが、このシリーズ完結まではあと五、六冊あり、さらなる御健筆を祈るばかりだ。