東京都内で、この8月に熱中症で亡くなった人は24日の時点で170人にのぼり、8月の死者数として過去最多となっている。ほとんどが70代以上の高齢者で、エアコンを設置していないか使用していなかった人が多い。この数年、夏を迎えるたびに高齢者へ熱中症予防のためにエアコンを使うようにこまめに呼びかけが行われてきたが、2020年夏は、新型コロナウイルス感染症への怖れから、家族でも細やかな対応が難しい。その結果、危険に直面する高齢者が増えている現実について、ライターの森鷹久氏がレポートする。
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猛暑とコロナ、このダブルパンチで危機的な状況に陥っている人たちがいる。
神奈川県在住の吉田豊彦さん(仮名・40代)が、慌てて近隣市に住む義理の父宅を訪れたのは、気温が35度を超えた8月中旬のことだった。
「電話しても繋がらないということで妻がパニックになっていたので私が様子を見に行きました。最悪の事態は免れましたが、脱水症状を起こしていて、意識は朦朧。すぐに病院に連れていきました」(吉田さん)
吉田さんの義父は、数年前に妻を亡くしてからは一人暮らし。認知症の疑いもなく元気そのものではあるが、昔の人らしく、体を冷やすこと、クーラーの電源を入れることを嫌うという。
「昔は扇風機で事が済んだ、というのが義父の言い分なんですが、平均気温は今の方が高いんです。さらに、コロナの影響を気にしてほとんど家から出ることがなくなり、我々とも会う機会はほぼなくなって……。妻が偶然異変に気がついたから良かったものの、一歩遅れていたらとゾッとします」(吉田さん)
8月10~16日までの1週間だけをみても、熱中症の症状で搬送された人は全国で1万2千人、そのうち死者は30名を数えたというから、コロナウイルス同様、高齢者や基礎疾患のある人々はまさに「死ぬほどの暑さ」に襲われているのだ。同じような経験をしたというのは、広島県在住の主婦・中村のり子さん(仮名・60代)だ。
「コロナの影響を気にして私たち家族、孫は同居の父・母との接触機会を減らしたのですが、それをきっかけに、ほとんど家庭内別居状態になりました。そこに来てこの猛暑。母は自分が除け者にされていると思ったらしく『私なんか死ねばいいとみんな思っている』などと言い出して、クーラーをわざとつけないで過ごし、気を引こうとしている気配さえあるんです」(中村さん)