安倍首相の辞任を受けて自民党総裁選が行われ、その勝者は9月16日に召集される臨時国会の首班指名で第99代総理大臣となる。総裁選は菅義偉・官房長官が党内主要派閥の支持を取り付けて圧倒的優位が伝えられるが、そうした中で問題となってくるのが「菅総理」の表記だという。
憲政史上、同姓の総理大臣は「田中義一と田中角栄」「鈴木貫太郎と鈴木善幸」など5組あるが(うち「鳩山一郎と鳩山由紀夫」「福田赳夫と福田康夫」は親族)、菅氏が総理に就任すれば、そこに「菅直人と菅義偉」という“準同姓”の組み合わせが加わることになる。
声に出せば「かん」と「すが」。テレビ報道では問題ないが、頭を悩ませているのは新聞の表記だ。
「過去の同姓総理は在任時代が大きく離れていたので、同一記事に登場することは稀だった。だが、“2人の菅総理”は在任時期のズレが10年未満となるうえに、菅直人氏は現職の野党議員。“菅元総理が菅総理を国会で追及”という場面もあり得る」(全国紙政治部記者)
ちなみに戦前の「加藤友三郎と加藤高明」は在任期間こそ同じ1920年代だが、先に就任していた加藤友三郎氏が首相在任中に病死していたため、「2人の菅」とは事情が異なる。
菅直人政権時代に発生した東日本大震災からの復興や原発政策は、9年が過ぎた現在も大きな政治課題。当時の菅直人氏の発言などを引用して記事を作るケースも出てくるので、字面の紛らわしさは避けられない。常にフルネームを記す方法もあるが、総理の名前はあらゆる記事で頻繁に登場するため、「読者にストレスを感じさせてしまう」(同前)との懸念もあるという。
もう一つ大きな問題となりそうなのが「検索」だ。これまでは「菅首相(菅総理)」のキーワードで検索すれば菅直人氏の記事や写真がヒットしたが、今後は「2人の菅首相」がズラリと並ぶ。今後の需要が高まるのは“菅義偉・首相”だが、少なくとも当面は「菅義偉を探しているのに、菅直人ばかり表示されてしまう」という事態が想定される。
記者らの間では2人の使い分けについて、〈菅(平成)と菅(令和)〉、〈菅(旧)、菅(現)〉〈菅(イラ)と菅(冷静)〉〈菅(カイワレ)と菅(パンケーキ)〉などといった大喜利のような話が飛び交っているが、まさか紙面に書くわけにもいかないだろう。読み手の側にも混同しないように注意が必要かもしれない。