録画視聴全盛のこの時代にあっても、偶然ふと目にした作品に、惹きつけられてしまったような経験は誰にでもあるはずだ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘した。
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このドラマがくれた、良い意味での驚き。第二話まで視聴して「ババアを甘く見るな!」と叱咤された感じがしたのは私だけでしょうか? NHK BSプレミアムで放送中の『すぐ死ぬんだから』(日曜午後10時)は「 新しい“終活小説”のドラマ化」。当初は老人が年を重ねていく大変さを描いた地味な作品かなと思っていたら、いやいやどうして。想定が外れたことに爽快感すら感じてしまいます。
後期高齢者がつい口にしてしまう「すぐ死ぬんだから」という言葉。それをタイトルに据えているあたり、毒が潜んでいないはずはない。原作は内館牧子氏の同題小説で、主演・三田佳子が実年齢と同じ78歳のハナを演じています。三田さんは何と23年ぶりに連続ドラマに主演しています。
おシャレで垢抜けているハナは、バアサンくささに磨きのかかっている同級生たちを心の中で軽蔑している。ある日、突然の夫の死によって隠された秘密に遭遇、一人になった老女が人生の波乱万丈をいかに受けとめていくのか……という物語です。
まず見所は、三田さんの怪演ぶりでしょう。細部に亘る自己演出がすごい。例えばハナのセリフ回しはゆったりしていてマイペース、どこかノンキそうにも見える。ところがコレという瞬間になると、ガラリと速度が変わり倍速の早口に。
セリフだけではありません。姿勢や歩き方にも工夫が潜んでいます。例えば一人残された家の中で、ばさばさの髪に暗い表情、ゆっくり動くハナは後期高齢者そのもの。しかし、ファッションを決め外へ出てやるべきことを見つけると変身。さっそうとした足取りで背筋もピっと伸びて後光が差すようです。そのメリハリ。「意志」「意欲」というものが人にこれほど活力を与え変えるのか、と驚かされます。
80才近い高齢者で衰えはしていても、だからといって全てを諦めたわけではない──揺れる心情、生きる意地、〇か一かではないという暮らしのリアル感が伝わってくる。役者自身がとことん研究して細かく演技を工夫しているのでしょう。
いや、役者だけではありません。演出手法も、他のドラマにはなかなか見られない味わいが潜んでいます。