■『壁の穴』総料理長 柳田慎一さん(46)
1953年創業の壁の穴はパスタの認知度が低い時代に「たらこスパゲティ」など和風パスタを世に送り出した。柳田さんは総料理長として各店を仕切り、伝統と革新を続ける。
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千葉出身の私にとって、渋谷は流行の最先端をいく街。約25年前、初めて『壁の穴』を訪れパスタを食べたのですが、家庭のパスタとはまったく異なるオシャレな食べ物に見え、おいしさに衝撃を受けたことをいまでも鮮明に覚えています。
『壁の穴』で働き始めてからは、渋谷で飲食店を続ける難しさを日々痛感しています。次々と現れる新しい店を拒絶せずに、興味とリスペクトを持って渋谷の街を盛り上げていきたいです。以前、北海道でたらこスパゲティの料理講習会を行った際、年配の女性から「昔『壁の穴』に行ったけど、行列で食べられなかったの。ここで食べられるなんて夢みたい」と言っていただき、涙が出そうになりました。
25年前とは客層も変わり、海外のかたや若いかたも増えましたが、昔からの常連さんも来店してくれます。多くのかたから愛されてきた店の歴史を大切にしつつ、受け継いできた味をブラッシュアップして、この店を守っていきたいです。
※女性セブン2020年9月17日号