令和の時代になっても人気の刑事ドラマは数知れないが、昭和の時代にもまた、熱狂的に愛されたドラマがあった。なかでも刑事ドラマの金字塔となったのが『太陽にほえろ!』だ。
多くのスターを輩出した『太陽にほえろ!』だが、そのなかでも、甘いマスクで品があり、女性や子供にやさしいことから「殿下」と呼ばれていた島公之刑事を演じたのが小野寺昭だ。女性からの人気が高く、殿下が交通事故死したドラマの放送終了後、現場にファンの手で殉職碑が建てられたほどだ。
『太陽にほえろ!』がいかにして作られたのか、小野寺に話を聞いた。
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ぼくは舞台出身で当時はテレビにあまり出ていなかったため、萩原健一さんや松田優作さんといった個性の強い出演者の中で、当初、存在感が薄かったんです。そこでプロデューサーらが、“女性心理のエキスパート”というキャラ設定をしてくれたんです。
それで少しずつ認知されるようになったのですが、人気を決定づける節目となったのは、殿下が犯人に麻薬漬けにされてしまう「鶴が飛んだ日」(第79話)でした。
紳士的なキャラクターで通っていた殿下が麻薬で壊れていくシーンは衝撃的だったのでしょう。ぼくもこの撮影はとても印象に残っています。現場には薬物治療の専門家に来ていただき、麻薬中毒になるとどうなるかを指導してもらいました。
そして、一晩かけて同僚刑事の山さん(露口茂さん演じる山村精一役)と禁断症状を耐え抜き、薬物を抜くシーンを撮影したんです。そのときの演技は後日、“アメリカ人俳優フランク・シナトラが映画『黄金の腕』で演じた麻薬中毒者を彷彿とさせる”などと高評価をいただき、とてもうれしかったのですが、そもそもあのシーンはぼくだけの力ではなく、露口さんとの掛け合いから生まれたもの。
このドラマでは、監督からの演技注文はあまりなく、役者が思い思いに演じられることが多かったんです。ですから、役者同士の試行錯誤が思いがけず名シーンを生む瞬間がよくありました。
スタッフのチームワークも抜群で、現場の雰囲気がとてもよかった。内容のおもしろさはもちろんですが、そういった関係性のよさも長寿番組になった理由の1つだと思います。
8年間演じて現場を去った後、ぼくは『太陽にほえろ!』を見ないようにしました。自分から、ほかの役も演じたいからと殉職を申し出たのですが、やはり未練があったんです。それだけ思い入れのあるドラマは、ほかにはありません」
【プロフィール】
小野寺昭/1943年生まれ。舞台やドラマなどで幅広く活躍。大阪芸術大学短期大学部客員教授も務める。
※女性セブン2020年9月17日号