誰もが忙しい毎日を送り、食に使えるお金が限られるこの時代、安くて身近な材料で、簡単においしく調理できるレシピが求められている。
そんな時代に登場したのが、SNSで人気のバズり飯だ。ツイッターやインスタグラムでは、日々レシピが投稿され、そのなかで大きく拡散されたものをバズり飯と呼ぶのだ。
大人気のバズり飯は、かつての日本の家庭料理が持つ「時間と手間をかけてこそ愛情がこもる」という固定観念を打ち破ろうとする。料理人で飲食店プロデューサーのイナダシュンスケさんはこう言う。
「古い料理本やレシピは、どこか高尚かつ権威主義的。“正しい料理はこうです”と押しつけるような印象さえありました。
でも、いまSNSでバズっているのは、そんな“上から目線”ではない自由なレシピです。例えば、昭和の料理本なら、“チキンブイヨンを使う”という工程に小さく“なければ顆粒スープをといても可”と書くでしょう。
でも、バズり飯では最初から“コンソメキューブを1個”と指定します。実用的で親しみやすいうえ、再現性が高く、時間をかけなくてもだれでも同じものを作れることが、バズり飯の大きな特徴です」
かつては冷凍食品や化学調味料の使用に対する風当たりが強かったが、そこにも変化がみられる。
イナダさんは「“冷凍食品は手抜き”“化学調味料はすべて体に悪い”という認識は時代遅れ」と語る。
「昔は“安くて簡単で楽”と“おいしくて元気になって幸せになる”ことは相反するものだと思われていました。でも、これだけ調味料や冷凍技術、調理家電などが発達したいまでは、これらは完全に両立するのです。
バズり飯の頂点に立つ料理研究家のリュウジさんは、“うま味調味料を入れた方がおいしいし、体に悪いものではないのだから、使った方がいいですよ”と、これまでの料理家が言えなかったことをハッキリ主張しています」(イナダさん)
さまざまな分野で活躍する人物を紹介する番組『セブンルール』(6月30日放送、フジテレビ系)に出演して注目されているぐっち夫婦も「料理をラクすることに、罪悪感を感じなくていい」と強調する。
栄養士の資格を持ち、食品関係の会社で10年働いた妻のSHINOさんはこう言う。
「もし、どうしてもスーパーで買ってきたままの総菜を出すことに抵抗を感じるなら、“買ってきたから揚げに大根おろしをのせる”とか“焼いたなすを添える”などのひと手間で、グッと豪勢になります。
昔の料理本はだしをイチからとることを教えるけど、いまはみんな忙しいですよね。だから日々の料理は、罪悪感を持たない程度に、ほどよく手を抜けばいいと思います」(SHINOさん)
「お母さんが、家族のために、どんなに忙しくても手間ひまかけてご飯を作るのが愛情」──そんな古い家庭料理への価値観を壊す使命を担っているのが、バズり飯なのかもしれない。