夏休み明けの9月1日。多くの子供にとっては待ちに待った新学期の始まりの日だが、子供の自殺が一年でいちばん多い日でもある。学校がつらい子供にとって、9月1日は地獄の始まりなのだ。2018年のこの日、樹木希林さん(享年75)は病室にいた。そして、涙を浮かべた目で窓の外を眺めながら、まるで誰かに語りかけるように、
「死なないで、ね……どうか、生きてください……」
そう繰り返していたという。樹木さんが旅立つわずか2週間前のことだ。
そのささやきは、樹木さんが年を重ねてから始めたライフワークの一環から絞り出された言葉だ。
樹木さんは、俳優活動の傍らで若者の自殺を抑止する活動に共感し、死の直前まで、思いとどまらせようとする言葉を残し続けていた。
2014年には『不登校新聞』の単独取材を受け、翌2015年には『登校拒否・不登校を考える全国合宿』での基調講演会を開く。そのほか、さまざまなインタビューで、自殺を思いとどまらせる言葉を発信し続けてきた。
『9月1日 母からのバトン』(ポプラ社)では、窓の外にいるまだ見ぬ誰かの命を守ろうとする母の姿を、娘の内田也哉子(44才)が振り返っている。
《なぜそんなことをしているのか問いただすと、「今日は、学校に行けない子どもたちが大勢、自殺してしまう日なの」「もったいない、あまりに命がもったいない……」と、ひと言ひと言を絞り出すように教えてくれました》
樹木さんからは、どこか何事にも執着しない雰囲気が漂う。「がんになってよかった」「ひっそりと逝きたい」といった発言からも、自らの寿命にとらわれずに生き、悔いなく死ぬのが“樹木流”とすら思わせる。その飄々としながらも、達観した一つひとつの言葉に多くの人が感銘を受け、樹木さんの言葉をまとめた本は飛ぶように売れていった。
しかし、他人の命については「必要のない人なんていない」「無理して死なないでいい」と繰り返し、“生”に執着していた樹木さんの一面を知る人は多くはない。
「樹木さんは、自らの幼少期に引きこもりだった時期があったり、孫がいじめられていたのを目の当たりにしたことがあったと話していました。おそらくその記憶が、子供の自殺防止活動をするきっかけになったのではないでしょうか」(全国紙記者)
※女性セブン2020年9月24日・10月1日号