今も多くの大学で後期もオンラインでのオンライン授業が続くが、学生に遠隔授業についての意見をきくと肯定的なものがある一方で、「質問はしやすいが相談しづらい」「早く大学へ行きたい」「まるで高校4年生」と、リアルなキャンパスへ行くことを求める意見が少なくない。だが、義務教育の年齢となると、リアルの学校へ行くこと、リアルのコミュニケーションそのものを不要だと早合点する子供たちが出現し、大人たちを戸惑わせている。ライターの森鷹久氏が、急にリアルが軽視されることに困惑し混乱する現場の様子をリポートする。
* * *
千葉県内の公立学校教諭・中島幸恵さん(仮名・30代)がいま、頭を悩ませているのは学校生活のあり方……というよりむしろ、学校生活そのものの意味だ。
「全国の公立小中学校の多くで、登校や授業が再開され始めましたが、各学校に必ずといっていいほど、コロナ休みをきっかけに不登校になってしまったという生徒がいます。一般的に不登校といえば、家庭環境やいじめなどが原因である場合が多い。ですが、今回はそれとは違う、新しい価値観を持った子供達が『なぜ学校に行かなければならないのか』と問いかけてくるんです」(中島さん)
中島さんのクラスのK君(男子・小学校高学年)は、勉強ができる秀才タイプで、人付き合いもよく友人も多かった。コロナ休み中は、友人とスマートフォンやゲームを通じてふれあい、進学塾の授業はパソコンを使って受けていたという。学校再開後は、課せられていた宿題もしっかり提出してきたというが、急に学校に来なくなってしまったのである。
「元々朝が弱い子でしたが、休みの間、ほぼ毎日昼過ぎまで寝ていたそうで、朝早起きして学校に行く、という習慣がなくなったのだとお母さんから聞きました。学校に行かなくても勉強はできるし、友達とも話せる、学校に行くのは、サラリーマンになって満員電車に乗って、お金を稼ぐためなのか?とK君に電話越しに質問された時、返す言葉が見つかりませんでした。学校に行かないこと、がK君の中では一つの選択肢になってしまったようなのです」(中島さん)
返す言葉が見つからなかった先生に頼りない思いをする人もいるだろうが、義務教育は学校へ行くことが当然という意識がしみついてきた私たちだって、いきなり小学生から登校しない理屈を聞かされたら、ショックを受けて黙ってしまうだろう。もっとも、K君は、朝、起きられないことを正当化するために学校へ行く理由がない、と主張しているようにも受け取れるが。