近年の「城巡りブーム」は、自治体にとって観光客誘致の大チャンスだ。現地を訪れた記念となる「御城印」の販売など、様々なビジネスが展開され、自治体は地元活性化のために“シンボル”をフル活用したい。そうしたなか、城跡の復元を巡る“ルール”が大きく変わろうとしている。
緊急事態宣言下にあった4月17日、文化庁の文化審議会文化財分科会は「史跡等における歴史的建造物の復元等に関する基準」を決定した。文化庁文化資源活用課が説明する。
「2017年の文化審議会において、全国各地で天守を再建したいという話が持ち上がっていることを受け、歴史的資料に基づく『復元』とは別に、『復元的整備』を認めることを検討すべきとの答申が出た。それを受けて議論を重ね、今回、新基準の策定に至りました。
『復元的整備』は、調査を尽くしても歴史的資料が見つからなかった場合、不明確な部分を来訪客に明示することなどを条件に、再建を認めるものです。基準が明確にあるわけではなく、個別の案件ごとに専門の先生方に認めるかの判断をしていただくことになる」
かつては城があったが、石垣などしか残されていない城跡は全国に数多くある。NHK大河ドラマ『麒麟がくる』に登場した明智光秀の叔父・光安(西村まさ彦)が守り抜こうとした「明智城」も、現在は曲輪や土塁などの遺構が残るのみだ。
だが、新基準によって“復興ブーム”が再来し、残された石垣などの上に、次々と史料に基づかない建造物ができることを懸念する声もあがる。
「たとえば萩城(山口)は、かつて5階建ての白壁総塗りの天守があったが、1874年に取り壊され、現在は『扇の勾配』と呼ばれる独特のカーブを持つ天守台の石垣が残るのみです。ただ、その石垣に歴史的価値があるとして世界遺産(萩城下町)にも登録されている。
天守の史料としては外観の写真が2~3枚あるだけで、図面はない。これまでの基準なら復元できなかったが、新基準のもとでは世界遺産の石垣の上に空想の産物を建てられることになってしまうのではないか」(関西在住の郷土史家)