放送が再開して再び話題が集まるNHK大河ドラマ『麒麟がくる』。存在感ある俳優が多数出演しているが、本郷奏多(29才)も注目を集める1人だ。彼は、「被り物が似合う」俳優だという。コラムニストで時代劇研究家のペリー荻野さんが解説する。
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ついに烏帽子を被った!
『麒麟がくる』で、若き公家で関白という高い地位にいる近衛前久を演じる本郷奏多を見て、そう思ったファンも多いに違いない。本郷といえば、『GANTZ』『進撃の巨人』『鋼の錬金術師』など多くのマンガ原作の実写版映画・ドラマ出演で知られるが、私が知る限り、彼ほどいろいろなものを被った若手俳優はいない。
2006年の映画『テニスの王子様』の越前リョーマ役では白いキャップがまぶしかった。近年の作品では、映画『キングダム』の秦国王の弟・成蟜役も印象的。口をゆがめて不敵な笑いを浮かべつつ、謀反を起こす成蟜の頭には、いかにも高貴な存在と思える黒い六角形の被り物が。
また、腕立て、遠泳とビシビシと厳しい訓練を受けつつ士官を目指す若者たちの青春ドラマ『あおざくら 防衛大学校物語』の主人公・近藤勇美役では、きりっとした制帽やカーキ色の作業帽、今夏放送の『大江戸もののけ物語』の妖怪あまのじゃく役では、額から頭に火焔土器の破片を被るという異色の姿も見せている。
そして、いよいよ烏帽子である。思えば、烏帽子は多くの二枚目俳優の新たな魅力を引き出すのに役立ってきた。古くは『源氏物語』で光源氏を演じた沢田研二、東山紀之、生田斗真、『陰陽師』で安倍晴明を演じた野村萬斎、佐々木蔵之介などなど、今年は『いいね!光源氏くん』の光源氏役の千葉雄大やそのライバル中将の桐山漣もいい烏帽子っぷりだった。
烏帽子の利点は、被っただけでどこか浮世離れして見えること。聞けば、本郷本人も排気ガスや人の呼気が嫌で外に出るのが好きではないという。烏帽子ボーイにぴったりだ。ただ、前久は、和歌や連歌に秀でる文化人でありながら、屋敷で優雅にまったりというよりはどんどん外に出る行動派。
『麒麟がくる』第22回では、改元についてぐだぐだ文句を言う将軍・足利義輝(向井理)の館に乗り込んで「言葉が過ぎるぞ!」と怒り、続いて大和の松永久秀(吉田鋼太郎)を直撃して、久秀の息子が将軍を亡き者にしようとしているとウワサがあると詰め寄った。
烏帽子ではなく、冠をつけて威厳を感じさせる前久は冷たい目だ。一方で、近衛家で姉弟のように育ち、彼を「さき様」と呼ぶ伊呂波太夫(尾野真千子)を訪問した際には、彼女におしめを替えてもらったから「今も頭が上がらぬ」と子供のような顔も見せる。
変わり者貴族といわれる「さき様」は、今後の『麒麟がくる』のキーマンのひとりにもなる。ほどなく勃発する「足利義輝暗殺」という大事件。前久はその首謀者たちと関わることになる。さらには次の将軍を誰にするかで、覚慶(のちの足利義昭・滝藤賢一)や織田信長(染谷将太)、明智光秀(長谷川博己)らと対立!? なのに後に信長と仲良くなっちゃう!?
これまで戦国を舞台にした大河ドラマでもあまり描かれることがなかった近衛前久たちの人柄や動きが描かれるのも『麒麟がくる』の特長のひとつ。伊呂波太夫からは「勝負事に向いてない」「弱いのに負けず嫌い」と言われた烏帽子さき様の動き、注目する価値アリです。