菅義偉氏が第99代総理大臣に指名され、新しい内閣が動き出した。首班指名に先立つ9月14日の自民党総裁選では大差で菅氏が勝利。300票近い差をつけられて2位に終わったのが岸田文雄・前政調会長だった。その結果を受け、「早々に勝てないとわかっていたとはいえ、今回もうちの母校から総理大臣が出せなかった。改めて悔しさがこみ上げてきます……」と話すのは、40代の霞が関官僚だ。
この霞が関官僚は開成高校から東京大学に進学した経歴の持ち主。東大合格者数で30年以上連続して全国1位の開成高校だが、意外なことにこれまで卒業生から総理大臣を輩出したことはない(戦前に前身の「共立学校」を出た岡田啓介元首相がいるのみ)。
「同じ男子御三家でも、麻布OBには橋本龍太郎さん、福田康夫さんという2人の総理大臣経験者がいるし、武蔵も旧制武蔵高等学校時代の卒業生に宮沢喜一さんがいる。開成は東大合格実績では他を圧倒しているのに、永田町の出世争いでは後塵を拝してきたのです」(同前)
岸田氏の総理就任は、政官界の開成OBにとって悲願だった。2017年に発足した「永霞会(永田町・霞が関開成会)」には、開成卒の国会議員や霞が関官僚約600人が所属し、岸田氏が初代会長に就任。発足時期からして「ポスト安倍レース」で岸田氏を支援するためのOB組織だとみられてきた。
「今年の2月にも永霞会の会合があったが、来る総裁選をにらんでのものだったされています。派閥領袖である岸田氏が総裁選での勝利を目指す上では、自らがトップを務める宏池会の議員に加え、他派閥の議員にどれだけ支持を広げられるかがひとつのカギとなる。開成OBの集まりであれば、他派閥の議員も隠し立てすることなく参加できるので“仲間づくり”の場にはうってつけです。また、総理・総裁を目指す上では、政策ブレーンとなる官僚も必要。会合には、岸田氏が霞が関人脈を広げる狙いもあったとみられている」(大手紙政治部記者)
しかし、急転直下の安倍辞任を受け、主要派閥が雪崩を打って“菅支持”を打ち出すと、岸田氏はなすすべもなく敗れ去り、開成OBの悲願はまたしても叶わなかった。
「同じ高校出身だからといって、永田町・霞が関でここまでの連帯感を見せるのは、開成くらいのものではないか。岸田氏と同じく、今回の総裁選で敗れた石破茂・元幹事長は塾高(慶應義塾高校)出身で、同校は国会議員を数多く輩出しているが、OBたちにそこまでの連携は感じられない。塾高OBの竹下亘・元総務会長、石原伸晃・元幹事長は派閥トップとして菅支持を決めたし、中曽根弘文・元外相(二階派)、河野太郎・行政改革担当相(麻生派)らにも石破氏を支援する動きはなかった」(同前)