国際情報

ノビチョク暗殺事件が「日本」で起こる可能性はあるのか?

神経ガス「ノビチョク」で殺されかけたロシアの反体制活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏(EPA=時事)

 恐るべき毒物を用いた事件が、またしても現実に起こってしまった──。8月20日、ロシアの反体制活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏がモスクワに向かう機中で突然意識を失い、家族の強い意向で、ドイツのベルリンの病院に移送され、毒物検査を受けた結果、猛毒の神経剤ノビチョクが使われた明白な事実が判明した。

 ドイツのメルケル首相はじめ、スウェーデンやフランス政府はこの事実を受け、ロシア政府に対して激しく抗議する声明を出した。ネット上で公開された機内でナワリヌイ氏がうめき声をあげている映像はあまりにも衝撃的だ。ただ幸いなことに現在ナワリヌイ氏はやっと自力で呼吸ができるまでに回復し、コメントを発表するに至った。

 神経剤ノビチョクは、英国で2018年、元ロシア情報員で英国の二重スパイだったセルゲイ・スクリパリ氏とその娘が襲われた事件でも使われている。英政府はロシア当局が親子を襲撃したと非難したが、ロシア政府は関与を否定した。

 平和な日本では馴染みの薄いノビチョクだが、国際社会での注目度は高い。そのノビチョク事件を予見していたかのような描写が、小説の中にも登場している。

〈「では、正体は」
 ──神経剤です。
 「確かですか」
 ──ええ、これはバイオ兵器の一種とみなしてよいと思います。
 「その殺傷能力について、たとえばVXガスと比較するとどうなりますか」
 ──致死性については、約五倍、ソマンと比べた場合は十倍です。おそらくこれは、通称ノビチョクといわれているものの改良版でしょう。
 ノビチョクという言葉を聞いて、吉良の口から、
 「ロシアですか」とひとことこぼれた。
 ──ご存知でしたか。
 「北大西洋条約機構が使っている検出装置にはひっかからないように作られた神経剤ですよね」[中略]
 なるほど。これで、刑事部と科捜研で起きていた事態は明確になった。何度やっても不可解な答えがでるので、科捜研はなかばパニックになり、それを水野が頑張れと叱咤激励して、時間ばかりがいたずらに過ぎた。〉(小説『DASPA 吉良大介』より)

 これは奇しくも7月に刊行されたばかりの榎本憲男氏の小説『DASPA 吉良大介』(小学館文庫)の一節で、東京・中目黒のマンションに住む白人男性が突然意識を失い死亡した事件が、ノビチョクによるものだと判明した場面である。

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