どうしたらこの状況を打破できるのだろう……、コロナ禍によりビジネスが立ち行かず厳しい状況に立たされている人も少なくないだろう。中小企業の倒産、飲食店の閉店、個人事業主の仕事の減少など、暗い話はあとを絶たない。
しかし、窮地に立たされてから、思いもよらないアイディアで、業績をV字回復させた“必勝商売人”もいる。
新潟県上越市で、明治20年に創業した「藤本製菓」は、和菓子店として地元で愛されてきた老舗だ。
店の近くには桜の名所があり、毎年4月末には多くの花見客で賑わうが、今年はそれがなくなった。加えて、まとまった数の菓子箱の受注が入る法事も見合わせる家庭が多く、売り上げは4月に4割減、5月には5割減になった。
「お菓子は嗜好品で、特別なときに食べるものなので、自粛ムードのときは買い控えが起きやすい。だったら、毎日食べるものを作ればいいと、食パンを作ることにしたんです」(5代目店主・藤本竜也さん・以下同)
もともと製菓学校で製パン技術も学んでいた藤本さん。基本的な知識は持ち合わせていたが、商品を作るとなると話は別だ。
4月後半から毎日試作に明け暮れた。和菓子店らしさを出そうと、自家製あんこを練り込んだ食パンにしようと方向性は早々に決まったが、満足のいくものが作れない。巷で流行っている食パンを真似て、生クリームやバターを加えるなど試行錯誤が続いた。
転機は娘の一言で訪れたという。
「私の娘が“バターは嫌いだ”と。それで、代わりにマーガリンにし、生クリームもやめて牛乳を練り込んだら、あんこの旨みが引き立つ、理想の食パンになったんです」
食パン開発を始めて2か月、ようやく“あん食パン”(1斤430円)を販売。するとすぐに地元のテレビ局が「珍しい」と取材に来たため、客が急増した。
「食パン目当てに客足が戻り、ついでに和菓子を買っていく人も。今回の件で、これまでにいなかったタイプの客層を取り込め、来店客数はこれまでより増えたと思います」
和菓子店がパンを販売。柔軟な発想と行動力が成功をもたらした。
●藤本製菓
【住所】新潟県上越市東城町1-4-46
【営業時間】7時30分〜19時
【定休日】なし
※女性セブン2020年9月24日