認知症の母(85才)を支える立場である『女性セブン』のN記者(56才)が、介護の日々の裏側を綴る。今回は、俳句にまつわるエピソードだ。
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要介護になる前の母は俳句が趣味で、身近なことを詠んでは句会にもよく参加していた。題材になった出来事はきっと心に深く刻まれるのだろう。いまも懐かしい句を見れば、そのときの気持ちまでが鮮やかによみがえるようだ。
“はーと形”に込めた最上級の贈り物の意味
母の部屋に大事に飾ってある古ぼけた額縁。中には縦横15cmほどのハート形の葉っぱと俳句が一句。17年も前に、当時4才だった孫(私の娘)と母との、ささやかだが忘れられない思い出が詰まった特別な額縁だ。
娘が3〜4才といえば、私は子育てに奮闘しつつ、仕事にもアクセルを踏み込んだ時期。預け先も保育園と実家の2か所態勢で奔走していて、娘のたどたどしいおしゃべりに耳を傾ける余裕もなかった頃だ。ちょうど11月の母の誕生日に娘を預けたとき、散歩の道いっぱいに落ちている色とりどりの葉の中から、娘が1枚選んでプレゼントしてくれたと、母は大変喜んでいた。
「孫からは何をもらってもうれしいんだな……」と、ボロボロで薄汚れた落葉を丁寧に額に収めた母を少々あきれ顔で見ていたが、母はこのエピソードを俳句に詠み、句会で披露して師や仲間からおおいに絶賛されたのだ。
「Sちゃん(孫)の保育園ではね、ハートが流行っているんだって。“いちばん好き”という意味だって。おばあちゃんが誕生日だから“ハートをあげる”ってくれたのよ」
母からそう聞かされたのは少し後のこと。母の心をとらえたのは“ハートをあげる”という言葉だったのだ。
かわいい保育園児が発したから“はーと”の表記にしたという、心憎いひねり技が秘められていることにも恐れ入ったが、落葉ひとつで絆を深めている祖母と孫の関係に、小さな嫉妬を感じたのも正直なところだった。