民主党のバイデン氏有利で進むアメリカ大統領選挙だが、実は経済界にはトランプ支持派が多い。トランプ政権の4年間、アメリカの経済成長は順調で、4年前の就任直前には2万ドルを切っていたNYダウ平均株価は、コロナ問題の前に3万ドル目前まで上昇した。トランプ政権が大企業への減税など産業保護政策を優先した結果であり、大企業の社員や企業経営者、富裕層には恩恵の大きい政権だった。彼らはいま、トランプ劣勢をどう感じているのか。ニューヨーク在住ジャーナリスト・佐藤則男氏がリポートする。
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「まずい。実にまずい」と、ウォール・ストリートの大手投資銀行首脳であるM氏は渋い顔である。株価を上げることにこだわったトランプ大統領の再選が危うくなっているのだから、それは予想できる反応だったが、興味深いのは、M氏が「まずい」と繰り返した理由である。コロナ問題でも人種差別問題でもなく、最高裁判事の人選だった。
「トランプ大統領は、リベラル派のギンズバーグ判事の後任を保守派にするつもりのようだが、もともと最高裁判事は5対4で保守派が多数だった。このままの構成でどこがいけないいのか。多数決で勝てばよいのだから、6対3だろうと5対4だろうと同じことだ。圧勝しても何の意味もない」とM氏は憤る。
「私はトランプ氏を支持するが、大統領選挙の年には最高裁の人事は行わないというのが政治の慣習だ。それは大統領職に敬意を示すことでもある。これから行う選挙で勝ったほうが真の大統領であり、判事の任命権を持つ。選ばれた大統領が決めるべきだというのは、極めて公平でアメリカらしい美点だろう。それをひん曲げては、保守派までもがトランプ氏から離れてしまう。なぜ再選されるまで待てないのか」(M氏)
大統領により指名された判事を承認するのは上院である。共和党はわずかに過半数を維持しているから、承認される可能性は高い。共和党上院も選挙前の指名・承認に積極的な姿勢を見せている。こちらもアメリカの良き伝統を壊そうとしていることになる。「そんなことを党ぐるみでしているから、改選になる共和党の上院議員たちも劣勢になっているのだ」(M氏)という見方はトランプ陣営にも共和党にもないようだ。