1983年から1985年にかけて放送された『金曜日の妻たちへ』(以下、『金妻』)シリーズ(TBS系)。当時、30~40代の女性視聴者たちから絶大なる支持を得て、“金妻ブーム”と呼ばれる社会現象まで巻き起こした。
3シリーズが制作された『金妻』の主要な登場人物は、いずれも30代から40代の夫婦。夫婦の友情、既婚女性のセックス観、不倫、家族問題、そして女性の自立などがテーマとなった。
あれから約40年、時代も女性の生き方も大きく変わっている。それこそ“女性の自立”ということは、今でこそ当たり前となっているが、当時はまだ当たり前ではなかった。
『金妻』シリーズが放送された1980年代はどういう時代だったのか。同志社女子大学学芸学部メディア創造学科教授でメディア評論家の影山貴彦さんはこう振り返る。
「1980年代は円高が進んだ時代で、後半には超低金利政策によるバブル景気が発生。大都市圏で地価が急激に上がり、株価も上昇。好景気に沸き、社会全体が前向きで明るかった。1985年には男女雇用機会均等法が制定され、女性の社会進出を国が後押しするようになるなど、女性の立場や価値観が変わりつつある時代でもありました」(影山さん・以下同)
そんななか、この『金妻』では時代を投影する新しい女性像が描かれた。
「それまでのホームドラマで描かれる女性といえば、子供を育てて家族のために奮闘する専業主婦、いわゆる“肝っ玉母さん”が主流でした。それがこのドラマでは、母や妻の役割だけにとどまらない、多様な生き方を送る女性が描かれたのです」
生活を充実させたい、幸せをつかみたい、若かった時代に戻りたい……だって、私たちの“青春”は終わってないのだから──などと、ドラマに影響を受け、そこに描かれる生活に憧れた30~40代の核家族世帯が、「少し遠くても一戸建て!」と、物語の舞台となった東急田園都市線のたまプラーザ駅や小田急線の中央林間駅といった郊外のニュータウンに一戸建てを建てたことから、“郊外ブーム”が起こった。登場人物が乗っていた“デートカー”こと、ホンダの「プレリュード」を所有することがステータスにもなった。
さらに、既婚者の恋愛が描かれていたことから、“不倫ドラマの代名詞”と評され、不倫願望を意味する“金妻シンドローム”という言葉まで生まれた。
「現在のような動画配信サービスがなかったこの時代は、家族全員でテレビを囲んでいました。そして、多くの人がドラマに描かれるような人生に憧れ、目指したのです。ドラマが流行をつくり、時代を牽引したと言っても過言ではありません」
「金妻」シリーズは、まさにそういったドラマの代表で、その後に流行したトレンディードラマの先駆けとなった。
※女性セブン2020年10月8日号