米紙ニューヨーク・タイムズは、トランプ大統領が就任前の15年間のうち計10年間にわたり、所得税を一切納めていなかったと報じた。本人は即座に否定したが、納税申告書など証拠となる書類は開示していない。また、大富豪と言われてきた同氏のビジネスが、実際は窮地に陥っていたことも暴かれた。リアリティショーの司会者として名を売ったトランプ氏の「リアル」が、いよいよ暴かれようとしている。トランプ氏と同世代で、ニューヨークのビジネス界で同時代を生きてきたジャーナリスト・佐藤則男氏がリポートする。
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とうとうその時がやってきた。4年前にトランプ大統領が誕生した当時、筆者を含め多くのアメリカの報道関係者やビジネスパーソンがとっさに思ったことは、トランプ大統領は納税申告書の開示を要求されるだろうが、それはできないのではないか、ということだった。納税の開示は法定の義務ではないが、歴代大統領が守ってきた慣例である。アメリカ人としての義務をきちんと果たしていることを広く国民に示すためである。
しかし、トランプ氏にはそれは難しいと思われた。税金を一切払っていないという噂は当時からあり、少なくともかなり際どい税逃れをしていることは容易に想像できた。大統領が率先して税金を逃れているということは、ほとんどの納税者にとって許しがたいことだ。まして、大企業グループの経営者、いや「王」のような存在の男である。
筆者が、トランプ氏は納税していないと早くから確信していた理由は巷の噂だけではない。筆者の友人で不動産投資の天才であるT氏のおかげであった。同氏は不動産プロジェクトを自ら手掛けて成功している。ハーバード・ロースクールを首席で卒業した男で、その頭脳の明晰さにはいつも驚かされた。金融機関や個人投資家から融資を引き出す交渉力にも長け、多くの銀行や富豪がT氏に協力してきた。
T氏の成功を助けたのはインフレである。アメリカ経済が成長してインフレが続いた時代、彼の持つ不動産の市場価値はどんどん上がった。T氏はその頭脳を駆使して、値上がりした不動産を担保にどんどん資金を増やしていった。借りた金は収入ではないから税金がかからない。担保もあるから自由に使える。T氏は絵画を買ったり、競走馬を買ったりして、夏は避暑地の豪邸で過ごしていた。
しかし、不況がやってくるとT氏は苦境に立たされた。投資家から集めた資本金は返さなくてもいいが、金融機関からの融資は返済を迫られた。一時はT氏もこれまでかと思った時期もあったが、ある中東の王族が資金バックアップを申し出て、そのピンチを救った。才能と実績があったために、命拾いしたのである。
不動産ビジネスというものは景気に左右されて天国も地獄も見る。トランプ氏のストーリーも大体T氏と似たりよったりのはずだった。もちろんトランプ氏の場合、T氏よりさらに規模が大きく、業界のボス的存在だったため、取引相手はもっと大物揃いで、資金面ではロシアのプーチン大統領や日本のトップビジネスと話ができる存在だった。しかし、それだけに損失も大きかったはずだ。大統領になる前の10数年間は、トランプ氏の手法で不動産ビジネスが成功したはずがないと思われたのである。