いまやテレビはコメンテーターで溢れているが、その発言は舌鋒鋭い「辛口」ではなくなった。不祥事を起こしたタレントは擁護し、政権や官僚の失策を追及することもしない。そこにはテレビ局が誤報を恐れ、また大手芸能事務所との関係を考慮していることなどが、背景にある。
一方、コメンテーターたちも、テレビで批判的なことが言いにくい流れを感じているという。多くの番組に出演する経済アナリストの森永卓郎氏(63)はこう語る。
「今だと“消費税を上げたら経済が失速するぞ”とラジオでは言えてもテレビではなかなか言えません。“Go Toキャンペーンで第3波が来るぞ”と言うのも難しい。それは制作側のスタンスというよりも、単純に視聴者にウケないからです。
昔は私が出演していた報道番組のプロデューサーが『政権をひっくり返すぞ』なんて豪語していましたが、今は視聴者のほうが反政府や批判的なトーンには興味がないようで、それでは視聴率が取れないみたいです。だから反政府的なことばかりを言っていると番組にお呼びがかからなくなる。私は数限りなくそうした経験があります(笑い)」
森永氏がかつて出演していた番組も、政府に厳しいリベラルの出演者が一斉に代わったという。
「我々がやっていたコメンテーターのかなりの部分は、今やジャニーズや吉本興業のタレントに移っています。情報番組が報道ではなくエンタメとして存在する時代なのでしょう。結局のところ権力批判はある程度余裕がないとできません。今はテレビ局も苦しいし、国民も苦しい。この状況で批判的なコメンテーターで番組を作っても、視聴率も取れなければ苦情の電話も来る。いいことがないんです」
※週刊ポスト2020年10月9日号