7年あまり続いた安倍政権はいかなる「負の遺産」を残したのだろうか──。安倍政権発足時から一貫してその政策を批判してきた、経営コンサルタントの大前研一氏が指摘する。
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安倍晋三前首相の辞任表明後、報道各社の世論調査で安倍内閣の支持率が軒並み急上昇するという不思議な現象が起きた。長期政権への慰労なのか? 難病・潰瘍性大腸炎への同情なのか? はたまた、いわゆる“同調圧力”なのか?
最近『同調圧力』(鴻上尚史・佐藤直樹著/講談社現代新書)という本が話題だが、今は安倍前首相を批判するのはおかしいと決めつけるような風潮=同調圧力もある。しかし、私は安倍政権発足時から一貫して安倍首相の政策を批判してきた。通算8年8か月の歴代最長政権が終わった今、安倍政治の問題点と、今後それが引き起こす後遺症をきちんと検証する必要がある。
安倍政権が残した「負の遺産」のうちの一つは、これまでも指摘したアベノミクスの失敗だ。アベノミクスの成果は400万人超の雇用創出と歴史的な低失業率、株高、景気拡大などと言われているが、雇用の増加と低失業率は団塊の世代が大量リタイアした後の人手不足と非正規雇用の拡大によるもので、正規の日本型安定雇用が大きく増えたわけではない。
また、株高は日本銀行やGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)による「PKO(買い支え)」と、安倍前首相と黒田東彦日銀総裁のアベクロバズーカで国債を乱発する一方で、日銀が金融機関や生命保険会社などが保有していた国債を450兆円も買い上げ、そのカネが株に回っていたからだ。
そして景気回復も「異次元の金融緩和」を続けて市場にカネをジャブジャブと供給する事実上のMMT(*現代貨幣理論。ある条件下で政府は国債をいくらでも発行してよいという考え方)政策による見せかけであり、実際、景気拡大局面が5年11か月続いたといっても、それはほとんど横ばいの地を這うような「ミミズ景気」でしかなかった。