世界保健機関(WHO)はインフルエンザと新型コロナの同時流行を警告し、インフルエンザの予防接種を受けるよう推奨。インフルエンザワクチンへの需要がにわかに高まっているなか、日本国内では「ワクチン争奪戦」が始まろうとしている。その理由はごく単純。日本におけるワクチン供給量が圧倒的に少ないからだ。
厚労省は過去5年で最大となる6300万人分を供給すると胸を張るが、それでは日本の人口1億2000万人の半分ほどしかなく、国民の2人に1人しか接種できない。しかも、ワクチンの備蓄量は地域によって偏在するので、余る地域もあれば、不足する地域もあり、国民の2人に1人が確実に接種できるとは考えにくい。充分な量とは到底いえない。「そもそも日本のワクチン施策の方向性はおかしいんです」と言うのは、ナビタスクリニック理事長の久住英二さんだ。
「昔は子供たちに集団接種をしていましたが、副反応の集団訴訟などがあって国が消極的になり、インフルエンザワクチンが定期接種対象ではなくなった。WHOはインフルエンザワクチンの接種率の目標を75%としていますが、日本のワクチンは6300万人分を全部接種しても75%には全然届きません」
インフルエンザワクチンは、WHOが予測するその年の流行型に基づいて、各国が生産を開始する。国際医療福祉大学病院内科学予防医学センター教授の一石英一郎さんはいう。
「日本では、厚労省が製造数を決めて国内4社に製造を依頼します。ワクチン製造には半年以上かかるため、いまから手をつけても間に合いません。供給が足りなくなったら海外から緊急輸入するケースもあります」(一石さん)
実際、2009年の新型インフルエンザのパンデミックでは国産ワクチンの製造が追いつかず、海外から急遽取り寄せた。
「しかし、今年は新型コロナの影響で、世界中でインフルエンザワクチンが不足する可能性があります。輸入ワクチンの認可には時間がかかることもあり、国内の供給不足に直ちに対応できないかもしれません」(一石さん)
国の進める高齢者優先策にも落とし穴がある。9月15日時点の人口推計で65才以上の高齢者人口は前年比30万人増の3617万人に達する。政府の要求通り、ワクチンを高齢者に優先的に振り分けたら、最大6300万人分の供給分のうち6割近くをシニアが利用することになり、そのほかの国民には3分の1程度しか行き渡らないことになる。