大作が大団円を迎え、次のクールが始まるまでの端境期、良い作品との出会いを求めるドラマファンも少なくないのではないだろうか。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏がレコメンドする。
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沁みるワンシーン。こんな演出の仕方があったのか、と思わず膝を叩きたくなるドラマ。上白石萌歌が『アカシアの雨がやむとき』(西田佐知子のヒット曲)をしっとりと歌う。その声は柔らかく響き、60年前の過去と今とが画面の中で一瞬重なりあいました。半沢ロスを嘆いている視聴者の方々にも、素敵なドラマが放送されていますよと(おせっかいではありますが)伝えたくなる。
『天使にリクエストを ~人生最後の願い~』(NHK総合土曜午後9時)は探偵事務所が舞台。生きる意味を見失った探偵・島田修悟(江口洋介)、助手・亜花里(上白石萌歌)、看護師・寺本春紀(志尊淳)、スポンサーである謎めいた老女(倍賞美津子)。4人がいわば一つのチームのようにして、死を前にした依頼人の“最期の願い”を叶えようと走る。
舞い込んでくる依頼の一つ一つが、他にはない個性的な「願い」。第1・2話では60年前に息子を捨てた母・幹枝(梶芽衣子)が、一度だけ「息子に会って謝りたい。捨てたくて捨てたのではないことを伝えたい」と望むが、息子はどこに……。
このドラマの特徴的な点とは、毎話、昭和歌謡を歌うシーンが入ること。しかしミュージカルではない。セリフのやりとりからごく自然に、歌へと話題が移っていく。普通の演出なら過去の曲を流すのだろうけれど、このドラマではキャストが歌い始めるのです。
第1話では、予期せぬ事故で息子を失った探偵・島田(江口洋介)が、『無縁坂』を途中まで歌いかけ辛くなって口をつむぐ。第2話では、亜花里を演じる上白石萌歌が『アカシアの雨がやむとき』を歌う。その歌は上手さだけではなく、ストーリーに寄り添った温かさと切なさや昭和の息吹、郷愁といった複雑な要素が伝わってきて、しっとりと画面を包みました。母親が60年前に息子を捨てざるをえなかった背景も、歌の中に浮かび上がるようでした。最初はセリフのように自然に響く歌が、言葉より深く人の心に染み込み歌詞が祈りの言葉にさえ聞こえてくるから不思議です。
それにしてもなぜ、毎回「昭和歌謡」なのでしょう? 過去の出来事に焦点が当たってその時代にヒットしていた歌が出てくる、というストーリー上の理由もありますが、それだけではないはず。
歌詞にヒントが潜んでいそうです。昭和歌謡は人生の苦さ、喪失の苦しみ、光を見つけた希望などが、まるでドラマの一コマのようにくっきりと浮き上がる歌詞が多い。そうした歌を、ドラマの中でキャストがあらためて歌うことによって二つのドラマが重なりあい「ドラマ・イン・ドラマ」の相乗効果を生み出すからではないでしょうか。