JR新橋駅から第一京浜沿いを南へ徒歩5分ほど、赤い鳥居が印象的な日比谷神社が見えてくる。そのすぐ先に店を構える『むらまつ酒商類』は江戸時代から7代続く老舗酒屋だ。この地で200年を超える歴史を紡いできた。
夕暮れ時、新橋・汐留界隈のサラリーマンが行き交う店先に、この店の惹句「酒こそ人生の名和㐂役(めいわきやく)」と書かれた行燈に灯が灯(とも)る。
「この店にはいい“気”が流れているんですよ。仕事帰りに一杯やってホッと安心できる場所です」(50代、エンジニア)と、店内に設えた小さな角打ち台で常連客が嬉しそうに酒を傾ける。
6代目だった父亡きあと、母と長女、長男、次男と一家が力を合わせて営むこの店は、「常に新しいことに挑戦していた父に倣って、3年前から角打ちを始めました」と語る次男の村松宏真さん(49歳)と妻の朋子さん(50歳)が主に切り盛りする。
角打ちできるのは、週に3日(水、木、金)。角打ちの日には、界隈で働く人を中心に客が立ち寄り、仕事の疲れを癒やしていく。
「宏真さんと奥さん、時々店に顔を出すお姉さんやお兄さん、この店の家族みんなが優しくてね。酒屋としての歴史やお酒の蘊蓄、店内に並ぶ宏真さんこだわりの銀製品とかね、熱い語りを聞かせてもらいながら飲むのが楽しくて…」と前述の常連客。
洒落たニットキャップ姿が若々しく「独特の世界観を持つ人ですね」と1つ年上の姐さん女房である朋子さんが評す宏真さんは、客らに“こだわりのある趣味人”として一目置かれているという。