老親を介護しているとなぜ、つらくて悲しいのか──。介護する人・介護者は日々悩んでいる。
介護者の悲しさの原因の1つは、“やり方がわからない”など、比較的わかりやすい“ストレス”であり、もう1つは長い歴史を共有する親が衰え、コミュニケーションも危うくなる“喪失感”だという。聖徳大学心理・福祉学部心理学科准教授の北村世都さんはこう言う。
「特に実親の場合はストレスと喪失感がごちゃ混ぜに絡み合い、怒ったり悲しかったりと複雑。親より長く一体感を共有した夫婦の場合は、喪失感がさらに大きくなります」
義理親介護の場合、嫁の怒りのもとが夫にあるケースも多い。介護を見守る夫の反応を見て失望すると、それもまた喪失感につながっていく。
「地域包括支援センターなどで情報を得れば、現実的なストレスの解消には役立ちます。しかし喪失感の方は情報では癒されないのです。介護サービスを使えば楽になるのがわかっているのに悲しみが先に立って前に進めないという事例はたくさんあります」
こんなときは情報より癒しを優先させる。自分自身の自覚も重要だ。
「喪失感を癒すには誰かが黙って話を聴くこと。傾聴です。究極の喪失である葬儀で、かかわりある人が集まり遺族の話に耳を傾けるように、喪失感がわかる人と悲しみを分かち合うことが必要なのです」
相談されるとついアドバイスをしたくなるが、癒すには否定をせず、丁寧に聴くことが大事だという。
「介護者支援の必要性が認識され始め、ケアラーズカフェなども増えてきました。一昨年には高度な傾聴技術をもつ心理職の国家資格『公認心理師』ができ、これから病院や地域のカフェなどにも活躍の場を広げていくことが期待されます。また心理職を育てている大学のほとんどが、地域の市民向けに心理相談室を設けており、一般のカウンセリングより低料金で相談ができます。
高齢者は時を重ねるごとに状態が変わってきます。介護は緩やかな喪失感の連続なのです。悲しみを受け止めてくれる人、場をいくつか持っておくことをおすすめします」