「10年前、パパ、パパ! と甘えてまとわりついていた娘が、今や話しかけても、チラッと一瞥ですよ」
そう言って肩を落とすのは、高校1年生の娘を持つ50代のお父さん。リモートワークで家族と共に過ごす時間が増え、妻から煙たがられるのは、まあ想定内。しかし、可愛い娘からの激辛塩対応には、ときに心が折れそうになるそうだ。それに、そもそも、うざがられるほど、娘と話をしていない。「今日、学校どうだった?」とか、「どこに行くの?」とか、「それ、いつ買ったの?」とか、せいぜいそんなものだという。
「いえいえ。まさに、それこそが、娘に確実に嫌われる会話そのものです」と、指摘するのは、ベストセラー『妻のトリセツ』(講談社+α新書)で、夫たちの曇った目からウロコを落としまくった人工知能研究者の黒川伊保子さん。今月、娘とのコミュニケーションに悩むお父さんたちから切望されていた『娘のトリセツ』(小学館新書)を上梓したばかりだ。
「コミュニケーションには、法則があります。妻や娘に、いきなり5W1H(What、Where、When、Who、Why、How)の質問形で話しかけてはいけないんです。ご法度と言ってもいい大事なルールです。5W1H系の質問を受けると、女性の脳は、心の対話のために使う回路を遮断し、問題解決に使う回路が強く発火する。いわば、戦闘モードに入ってしまうんです」(黒川さん、以下同)
娘との会話に5W1Hの質問は禁句
対話には「心の対話」と「問題解決の対話」の2種類があるという。心の対話は、気づいたこと(それ、いいね)(カワイイ)や感情体験の告白(悲しい、大変、ひどい、嬉しいなど)から始まり、「共感」で紡いで、「新たな気づき」や「安心感」で着地する。問題解決の対話は、ゴール設定(なに、どこ、いつ、だれ、なぜ、どうして)で始まり、「問題点の指摘」をしあって、「解決」で着地する。
男性脳は、狩りをしながら進化してきたので、脳が、強いゴール指向に初期設定されている。目標に一直線で、感情や目の前のあれこれに気を取られないようにチューニングされている。現代においても、問題解決の対話はビジネスの基本。働き盛りのお父さんたちは、家庭でも、5W1Hで始まる質問がつい口をついてしまう。
父親からのいきなりの5W1H質問に迎撃態勢に入ってしまった娘には、会話のとっかかりのつもりの「今日、何してたの?」が「勉強もしないで、何やってたの」と非難めいて聞こえてしまうのだ。攻撃されたと感じてイラっとし、身を守るために不機嫌になるか、激しく反発することもある。
「つまり、5W1H型の会話は、娘にとっては責められているようで、本当に不愉快。嫌な思いをさせてマウンティングするつもりなら成功ですが、親交を図ろうとして、それをやっているのだとしたら、それこそ大失敗です」と黒川さん。
では、娘と「会話」するためには、どうすればいいのだろうか?
「心の対話は、相手のことを尋ねるのではなく、こちらの話から始めるのが鉄則です。私は、それを“話の呼び水”と呼んでいます。井戸の水が上がらないときに、バケツ一杯の水を注いで、呼び水をする。あれと同じ。自分が感じたこと、自分に起こったことをちょっと話す。すると、相手のことばが溢れてくる。それを楽しむのが、コミュニケーションです」