《あんまり毎日が楽しいせいか、結婚なんて、いままで全然考えたことがないんですよ》
《老眼きょうごしに浮き世をながめるようになりますと、「いかに生くべきか」という文字も拡大されてせまってきます》
これらは“日本一有名な家族”を生み出した漫画家・長谷川町子さん(享年72)が生前、自らの人生について語った言葉だ。
終戦の翌年の1946年に連載が始まった『サザエさん』をはじめ、『いじわるばあさん』『エプロンおばさん』などの傑作を生み出し、老若男女の読者に長らく愛されてきた
道を挟んだ記念館の向かいには、1985年設立の長谷川町子美術館もあり、桜新町の住人のみならず、日本中のファンに愛されてきた。美術館3代目館長で町子さんの作品を出版していた「姉妹社」の社員として半世紀近く彼女を支えた川口淳二さんが語る。
「展示されている漫画をのぞき込む小学生のお孫さんに、『おばあちゃんの小さな頃はこんな生活だったのよ』と説明する光景をよく見掛けます。世代を超えて楽しんでくださる家族連れの来場者が多いですね」
朝日新聞で連載していた当時から『サザエさん』のファンだったというエッセイストの中野翠さんは「いま読んでも決して古くさくなく、どこかおしゃれで品がある」と、その魅力を語る。
「絵の線がスッキリと洗練されていて無駄がない。サザエさんのワンピースの柄やワカメちゃんの水玉模様のスカートなど、当時の流行も反映していて、とてもおしゃれでかわいらしさもあります。
話の内容はといえば、呑気で朗らか。『サザエさん』も『いじわるばあさん』も都会の密接した人間関係の中で話が展開しているはずなのに、決してギスギスはしない。読んでいてホッとするところが、時代を超え、くり返しブームになる理由ではないでしょうか」