読書の秋。とはいえ、高齢になると細かな文字を追うのも億劫になるものだ。そんなときには「聴く」という手もある。朗読、落語などをCDやインターネット配信で楽しむオーディオブックだ。
2015年には配信会社と大手出版社が連携し、オーディオブック普及などを図る日本オーディオブック協議会も発足し、耳で楽しむ作品の幅もどんどん広がっている。また、集中して聴くことで脳も活性化するという。加齢の衰えに負けず、耳をしっかり使い続けることをすすめる川越耳科学クリニック院長・坂田英明さんに聞いた。
意識的に聴こうとする姿勢が脳を刺激する
「音が耳に入ってきて聞く のは英語で“Hear”。どちらかといえば受け身。意識して聴くのは“Listen to”と、方向を表す前置詞がついて目的が明確、能動的です。音楽でも人の話でも聞き流すとあまり刺激になりませんが、能動的に聴くと脳が活性化し、心身にも好影響があります」
と坂田さん。耳から入ってくる音は電気信号になって脳幹を通り、記憶の倉庫である海馬や情動を司る扁桃体がある大脳皮質に至る。ここに蓄積されている情報と照らして分析され、初めて入ってきた言葉の意味や音の情感が認識されるという。“能動的に聴く”とは入ってくる音に集中し、聴き込むこと。これが繰り返されることによって脳血流も促されるのだ。
「聴覚は特に脳幹と密接なかかわりがあります。脳幹はどこから聞こえるかを感じる方向感を司り、背後から来る危険を察知したり、騒々しい場所でも特定の人の話を聴き取ったりすることもできます。また呼吸や睡眠、血液循環など重要な機能も担うので、しっかり聴くことで体を整え、記憶・集中・理解・発想などの能力も高めます。年を重ねるとどうしても聴力は衰えてきますが、補聴器なども利用してぜひ“よい聞こえ”を維持してください」
ちなみに3~4人が気ままにしゃべる井戸端会議は格好の聴力トレーニングだという。